今から10年ほど前のことになるが、その頃私は腰を痛めていた。ぎっくり腰でもなく、何というのか‥‥‥?
朝、起きてしばらくは腰が曲がらない。低い位置のものをとろうとするには、膝の屈伸で拾う。昼間はだいぶ良くなってくるが、ずっと立ちっぱなしだと、お辞儀などができない。
朝、寝ている身体を起こすとき、いきなり起き上がれなくて、横向きになってから手をついて、背骨を一個一個積み上げる感覚で起こす。くしゃみなどしようものなら、ビキッとした痛みが走るので、身体を丸めて「クスン」みたいに小さくする。これは結構なストレスだったな。
「ハックショ~ン!!!」
って豪快にやりたかった。
整形外科では足を引っ張るみたいな治療もしました。整体にも通いました。鍼治療もしました。ほんの2~3分の治療に数千円も支払うちょっと怪しげな治療も通ってみました。アロマみたいな施術も受けました。電気、マッサージ……。が、全然よくならない。
ある時、夫の仕事関係の方が
「中国に鍼治療のいい先生がいる」
という話をくださった。紹介もしてくださるという。夫も肩や腰が痛いと言っていたので、
「まず、俺が試してくる」
と中国へ行った。
夫は、すぐに人を信じる。あ、もちろん、見ず知らずの人ではない。自分と長く関わってきた人には、絶対の信頼を置く。そして、フットワークが良い。
治療を受けたその日に、報告があった。
「鍼が、菜箸のように太い(先端は細いが)」
「麻酔をかける」
「先生は、医学部?医療系大学?を出ていて、専門は『骨傷科』というらしい。現在中国には3人ほどしかその治療を行える人間はいない。先生の息子さんも医大を出たが、できない(その腕がない)」
えっ?骨傷科ってなによ?麻酔かけるってそれ、手術じゃないの!ますます怪しい。
翌日には
「昨夜は血流が良くなったのか、暑くて眠れなかった。調子はいい」
と連絡があった。
帰国した夫は
「次は3か月後に予約してきたから、その時一緒に行こう」
と言った。私は急に怖くなり
「その時、私は観光だけでいいわ」
と訴えたが
「だったら連れて行かない」
と言われてしまった。
紹介してくださった方は私たちよりも10歳ほど上の女性の方だ。会社経営をなさっている。私も何度かお会いしている。聡明で優しいその方を信じて、夫を信じて、私は覚悟を決めた。
その日は、その女性の友人3人と治療を受けた。羽田空港で初めてお会いした方たちであったが、「俎板の鯉4匹」ってことで早々に意気投合し、順番のためのじゃんけんまでした。
大通りに面したビルの1階にそれはあった。待合室には大勢の人がいた。両脇を抱えられた学生さんが片足ケンケンで診察室に入ったかと思ったら、出てきたときにはびっこをひきながらも一人で歩いていた。
「まさか、やらせではないだろうね?」
と思った私だった。
言葉も通じないから、(その女性が通訳をしてくれたが)あれこれと詳しい説明も受けられず、質問もできず‥‥‥。これが日本国内の治療院だったら、私は逆に絶対施術を受けていなかっただろう。 ネットで検索できるし、直に先生に日本語で質問もでき、説明も受けられる。知りすぎて怖い。
未だに信じられないが、終わってベッドから難なく起き上がることができたのだ。さらにちょうど五十肩を患っていたが、そちらも鍼を打ってもらったら不思議とその場で痛みが消えた。私の場合は、この1回の治療だけで終わった。金額は確か、8,000円ほどだったと思う。
落ち着いて院内を見渡すと、簡易パネルで仕切られたなんだか不思議な部屋。この後、何か怖い副作用でも出なければいいが‥‥‥と思った記憶がある。
あれから15年、なにも起こらない。あれほど辛かった腰もなんともない。その後、もう片方の50肩を患ったが、世間では
「いつか治るもの」
と言われていたので、中国の先生を頼ることはしなかった。結果、ひどい痛みが消えるまで半年かかった。あの時はその場で痛みが消えたこと、あらためて驚きだ。
そして、数年前にその先生が亡くなられたという報せを受けた。夫は非常に残念がっている。今となっては、さらに何も分からない。
それにしても未だに思い出して怖くなる「骨傷科」だが、さすが「中国4,000年の歴史」だわ。今、その治療ができる先生はどこにもいらっしゃらないそうだ。