実家は商売を営んでいたので、母はよくお客さんが通りかかると

「お茶淹れたところだから、寄って行って」

と招いていた。それは小さい頃の父親(私の祖父)の教えだったようだ。近所の人を呼び止めてちょっとしたおもてなしをする。

「人が集まる家は良い家」

と言って、長女である母は

「茶菓を運びなさい」

としつけられたと。

 

 田舎で農家をしていた母の実家は道を通る人が見渡せた。田舎だし、知った人しか通らない。広い縁側があってみなさんそこで一服して世間話をしていく。

 

 そして今‥‥‥。商売はとっくにたたんでしまったが、電気屋さん、水道屋さん、工事屋さんなどが入ると母は昔学んだことを発揮する。

 

 築50年の実家は、大したリフォームもしてこなかったので、雨漏り、水道水漏れ、外壁はがれなど、立て続けに不具合が起こった。母は退院直後だというのに朝から、蒸しパンや杏仁豆腐やプリンを作ったり、芋を蒸かしたり、麦茶を沸かしたりと準備に余念がない。

「何にもなかったから、リンゴをむいた」

などなど。

「大変だから、私がペットボトル買ってくるよ。それを置いておけばいいんじゃない?」

というのだが、何かしら用意する。ああ、そういえば、ぬか漬けとかまで出しちゃう。

 

 そうして

「ありがとう。ごちそうさま」

と言われると、すごく嬉しそうだ。

「奥さん、この蒸しパン、おいしかったから、持って帰ってもいい?」

なんて言われると、母の顔がパッと明るくなる。そしてよろよろと立ち上がってサランラップを取りに行く。

 

 ところが、ケアマネさんやヘルパーさんにもそれをする。もちろん、大きな見返りなど期待していない。小さい頃から身に付いた90歳なのだ。が、その方たちは絶対にお菓子などには手を付けない。

「どうぞ上がってください」

と何度も母は言う。コロナ禍では仕方なかったが、今でも

「お仕事なんで、すみません」

と言うのだ。母はがっかりした顔をする。

 

 私は個別包装になっているものなら

「1つ頂きますね」

って言ってほしいくらい。帰ってから、ポイと捨てても構わないくらい。それによって母がどれだけ笑顔になるか。こういうことに関してどうしてこんなに頑ななんだろう?

 

 かたや、お米もらっちゃう大臣もいるのにねぇ。

「売るほどある」

だってさ!