小中高校と離任式という行事があったが、小学生の私には理解できないものだった。とっくに新しい学年になってクラスや先生にも慣れ始めた4月の後半にそれは行われた。

 

 小学生って校長先生、担任、保健の先生くらいしか名前と顔が一致しない。高学年になればクラブや委員会活動、専科の先生とも関わり合いがあるが。ということで低学年の私は離任式に現れた先生にも

「あの人、だれ?」

だ。よくわからない先生が朝礼台に立ち、校長先生の

「○○先生は、新しい学校でお仕事がたくさんある中、今日はわざわざ来てくれました」

みたいな言葉のあと、挨拶があった。

 

 我が家は商売を営んでおり、夜に家族団らんってものもあまり記憶にない。世の中のニュースや社会問題などが話題になることもなかった。家庭環境のせいにするのは今となっては恥ずかしいが、教員の人事異動がいつ決まるのか、それを公にできるのはいつか、なんて全く知らない小中学生の私だった。

「なんで3月の修了式とかにやらないんだろう?なんで4月にやるんだろう?しかも意味があるのかなあ?忙しいんなら、わざわざ来なくたっていいのに‥‥‥」

 

 高校生になった頃、その仕組みがわかってきた。「この学校から別の学校に移りますよ」の教員異動が年度末最終日にやっと公になること。新聞に名前や前任校新任校が細かい文字でびっしりと掲載される。つまり発表は春休み中だということ。そのために離任式って行事が4月にずれ込むこと。

 

 そして私は高校1年生の時の離任式に衝撃を受けた。異動なさったある1人の男性教師、私の記憶によれば50代くらいかな。もちろん私はその先生がどんな先生だったか全くわからない。だって私は入学してひと月も経っていないんだもの。異動した先生なんて知るよしもない。

 

 すると、フォークギターを抱えた男子生徒が2人、朝礼台に上がったかと思ったら、演奏し、歌を歌い始めた。NSPの『さよなら』という歌だと知ったのはのちのこと。私はただただそのギターと先輩方の歌声に酔いしれていた。

 

 フォークソング全盛のあの頃、マイナーな曲調で、実際は男女の別れの歌詞ではあったが、「さよ~なら~、さ~よぉなぁら~♩」のハーモニーが繰り返される。声もギターの音色も心地よかった。私はしばらくそのメロディーが頭から離れなかった。

 

 「離任式」ってこれか、と思った。その先生、どれだけ生徒たちに慕われていたのかな?私もその先生に習いたかったな。高校生、急に大人に近づいたそんな気がした。