step and go☆嵐が大好き✩.*˚羽生結弦くん応援!

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現在は主に、羽生くんの事、嵐さんの空想のお話を掲載しております。
(過去の嵐さんの空想のお話は、『Angelique』を再掲中です。他のお話については検討中です。申し訳ありませんが、ご容赦くださいませ)


注) 

☆。.:*・こちらは、『天城雪彦』ネタの二次創作のお話となります。ジュノ目線の一話完結です。大丈夫な方のみ、どうぞ☆。.:*・




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スリジエハートセンターが開院すると、たちまち沢山の患者さんでいっぱいになった。


今では、世界でも指折りの心臓外科センターとしてその名を馳せている。俺にも『ぜひ世良先生に』と、オペの順番を待ってくれている患者さんが増えてきて、忙しくも充実した日々を送っていた。



しかし、最近の医局では奇妙な噂が流れている。


『仮眠室で天城先生らしき人とすれ違った』

『通路で、天城先生が立って絵を見ていらした』

『患者さんが、変なこと言ってたんです。天城先生と名乗る方とお話して励ましてもらったって」

そして、そんな幾つかの噂話の最後には、

『世良先生は、天城先生の姿を見ていないんですか』

と聞かれるのがお決まりだ。


「私は見てないんですよ。残念ながら」


肩を竦めて今回も同じ答えを口にすると、


「そうですか…。一番にお近くにおられた世良先生が見てないのも変ですよね。

やっぱり何かの、見間違いなのかも知れないですね」


そう会話が引き取られ、潮が引くように、また皆それぞれの日々の業務に戻ってゆく。




……ハッ、何を今更。

出るなら真っ先にこの俺のとこでしょ?


幽霊でも何でもいい、天城先生にもう一度会いたいって、心の奥で叫んでいたあの頃は、夢でさえ全然出てきてくれなかったくせに。

ホントにもう、天邪鬼、いや、悪魔だよあのひと

この病院の中で、絶対俺が一番に、あなたに会いたいのを分かってるだろうに。



『ジュノ…』




優しく歌うような、耳をくすぐる声。今だってすぐ思い出せるのに。


正直、初めてその噂話を聞いた時は、いてもたっても居られずに、天城先生を見たという場所を一日に何度も往復してみたり、会ったという患者さんにさりげなく話を聞いて回ったりもした。


でも、結局、どこをどう探しても会えなかったけど。



「…さて、あの店に寄って帰ろうかな」



今の季節は、桜の開花時期には程遠い。

夜も更けて、そこそこに腹が減ってきたから、いつもの店に寄って何かつまんで帰ろう。

もう医局には自分しか残っていなくて寒々しい。手早く帰り支度をして、ロッカーで着替えてコートを羽織った。



「ジュノ」



耳から入ってきた懐かしい声色に、コートの襟を直す手が止まった。

声がした部屋の入口に身体を向けると、

───天城先生が、そこに立っていた。


さくら色のジャケット、白いシャツ。

あの日と変わらない格好で、あの日と変わらない微笑みで。軽くドアにもたれて、腕を組んで。


でもひとつだけ。

背中に真っ白な、見事と言っていいくらいの美しい翼が…



「あまぎ、せんせい……それ…」



「うん?」



立ちすくむ俺を、楽しそうにニヤニヤ笑って見ている。


その翼のことを聞いてみたい。でも…やっと会えたのに。そうだ、



「あの、軽く食べに行きませんか。すぐ近くに行きつけの店があって。昼はカフェで夜はお酒を出すんですけど、頼めば夜でもカフェのメニューを出してくれますし」



「ジュノの行きつけか、それはいい。よし行こう」



連れ立って救急のエントランスから外に出ると、冬の冷気がヒヤリと身を包む。



「天城先生、これを」



自分のコートを脱いで着せかけようとすると、



「ジュノが着てなさい」



と首を振る。



「じゃぁ…」



せめてと、持っていたマフラーを 天城先生の首にグルグルと巻いた。



「メルシ」



いつものように機嫌良く、天城先生は俺の少し先を歩く。



「あ、そこの突き当たりのお店です」



「ふーん、中々良さそうじゃないか」



「可愛いビストロでしょ、雰囲気が落ち着いてますよね。味も良いですよ」



「そりゃぁ楽しみだ」



ドアを開けると、



「2名様ですね」



案内された席まで他の客もいたけれど、誰も天城先生を見咎める者はいなかった。

怪訝な顔をされることも無く、注文すると、普通に食事が運ばれて来た。


ごゆっくりどうぞ、と置かれた湯気の立ったショコラショーに、天城先生は殆ど口をつけない。

でも、おかしいところは何も無い。元々このひとはそうだった。

一緒に食事をする機会は何度かあったけど、食べていたのは自分ばかりで、さ。




「どうしたんだい?ジュノ。冷めたら美味しくないよ」



俺の不躾な目線に、ほんの少しだけ居心地の悪さが混じった声。



「いえ、すみません。なんでもないんです。いただきます」



目線をガレットの乗った皿に落とし、大きめにナイフを入れて、豪快に口の中に押し込んだ。




「うん、うま……やっぱりここのガレットは美味いです」



「そうか」



テーブルの下で脚を組んで、背のクッションにもたれ、リラックスした微笑みで俺を見ている。

何も変わらない。


ゴールドコーストに天城先生を迎えに行って、胸が潰れるような事実を知ったあの日。

あの日から年月が流れたというのに、天城先生は、日本で最後に別れた時と、何一つ変わらない姿で目の前に居る。


天城先生の背後の純白に輝く双翼だけは、どうやら俺だけにしか見えないらしいから、それさえ気にしないようにすれば。


そう、天城先生は死んでなんかいない。

あれはきっと何かの事情があって、、そう、そういう体裁にしただけだ。


まだまだ教わりたいことが沢山ある。


残り4分の1程になったガレットを、一気に口に入れた。



店を出て、タクシーを拾おうと大通りに出た。

天城先生をもう離したくない。

俺のマンションへ連れて帰ることを考えていた。



「ジュノ、アレに乗らないかい?」



天城先生が指さした先には、海沿いの大きな観覧車が光っていた。



「観覧車ですか?良いですけど」



「じゃぁ決まりだね」



石畳をステップを踏むように、軽やかに歩く天城先生。

渡海先生と姿形は瓜二つなのに、この歩き方ひとつとっても、まったく違っているのが不思議だ。



観覧車は、どうやら最終の運転のようで、運良く滑り込めた。


向かい合わせに座ったゴンドラは、ゆっくりと 俺と天城先生を空に運んでゆく。




「観覧車なんて、子どもの頃家族で乗ったきりですよ」



「僕もだよ。…昔は、バカンスのシーズンにはウチの近くに移動遊園地というのが来ていてね。メリーゴーランドや観覧車もあったんだ。いつも頼もしい父が、ゴンドラが風で揺れたりすると怖がったりするのが面白くてね。フフっ よく誘って一緒に乗ったっけ」



「なんだか、素敵な思い出ですね」



「そうかい?まぁ父も、よく付き合ってくれたよ。」



そう言うと、窓の外に目線を移した。



「…わりと風強いですね。天城先生は揺れても平気なんですか?」



「うん」



「結構、高いところまできましたねぇ」



てっぺんまでもうすぐだ。


黙って観覧車の窓から海側の風景を見ていた天城先生がふいに、



「あんた医者じゃないよ、か……フフ」



懐かしむようにクスクスと笑った。



「え?あ、、」



「あの時のジュノは、向こう見ずだったねぇ。まさにジュノの名に相応しい」



「あの時は、だって、天城先生のことを何も知りませんでしたから。でも、」



俺が頭を下げ詫びを口にしかけた所を、



「いや、謝らなくていいさ」



と微笑んで制した。



「ね、天城先生。これからの事を話しましょう?

また、戻って来てくれるんですよね?」



天城先生は、黙って静かな瞳で俺を見ている。



「俺、待ってたんですよ、ずっと。日本で天城先生の帰りを。

エアメールを読んで、ゴールドコーストでもし不測の事態が起こったとしても、引きずってでも、必ず日本行きの飛行機にあなたを乗せようと決意してました。

なのに…」



こんなこと天城先生に伝えるつもりはなかった。

だけど一旦堰を切ってしまったらもう、土石流のように全てを押し流すまで止まらなくなってしまう。


勝手に溢れてしまう涙も腕で何度も拭って、鼻をすすりながら、続けた。



「……でも、でも同時に、俺には分かったんです。

天城先生が姿を消したのは、俺たち医者が、天城先生を治せなかったという無力感で潰されないためだったと。

医者はなんのためにいるのかって、、。お母様を送られた天城先生だからこそ、俺たちが同じ思いをしないように、ひとりきりで耐えてくださったのだと。


ここで医者をやめたら、俺がやめたら、あなた達に教わった事実が、継承してもらったものが、途絶えてしまうから。無かったことになってしまうから。

そんなの、絶対に嫌でした。


だから俺は、歯を食いしばってあなたの墓前に誓ったんです。これからも、医者の仕事を続けていきますと」






「…うん」



「すみません、、自分の気持ちばかり押し付けて」



「いいさ。

それに、僕は知ってるから 。フフ、しばらくの間に ずいぶん立派になったじゃないか。

ジュノって名前は、もう返上だな。

今日はそれを言いに来たんだよ」



そんな寂しそうに笑わないで。

あなただって、まだ想いを残してるんでしょ?だから俺に会いに来てくれたんでしょ?



「ダメです、待ってください」



「ジュノには見えてるだろう?

行き先は黒い翼の方かなと思ってたんだが、、やはり僕は神様に愛されていたらしい」



デモンストレーションよろしく、バサりと純白の翼を広げた。


別れの予感が唐突に身体を貫いて、再び失う怖さに顔を覆った両手が震えている



「待ってください……ほんとにあなたはいつも、勝手すぎます…!」



何度涙を拭っても、目を凝らしても、天城先生の輪郭はぼんやりと滲んだままだ。

そのくせ、背中のふたつの翼だけは、目が眩むくらいに、白く眩しく輝きを増してゆく



何もかも勝手に決めて、俺を置いていって。

それがぜんぶ医療の未来のためで俺のためだって分かってます、勿論わかってますよ?

でも…、でも



「天城先生…

天城先生、どうかここにいてください!

まだまだ、あなたが必要なんです!!患者さんたちだって、俺たちにだって!!」



「ジュノ、おまえは……」



翼の白い光が、天城先生を包み込んでゆく



「待って!!」



夢中で席を立ち、その身体を引き留めようと両腕で力いっぱい抱きしめた。

つかまえた!

華奢な温もりの、確かな手応えを感じたと思ったのに…。

次の瞬間には、その感触が魔法のように消えていた。


恐る恐る腕を開くと、天城先生に巻いていたマフラーだけが、虚しくとり残されていた……





観覧車のドアから一人で降りてきた客に、係員は特段の興味も示さず、

「出口はあちらです。ゆっくりお進みください」

の言葉を繰り返していた。


このまま帰路に着く気分にもなれずに

主を失ったマフラーを首に巻き、海沿いの遊歩道を歩いた。


テトラポットに、さばんと波がぶつかる重低音。

海から渡ってくる潮風が容赦なく頬を打つ。


立ち止まって、真っ暗な水平線の向こうに目を凝らした。

─ゴールドコーストの、温暖な気候と明るい空と海。

そこから始まった数々の出来事は、もう、遥か遠くの出来事のように思えた。


人生の中の、青の時代。


透明で、がむしゃらで、希望と正義感と、、今思うと天城先生に失礼な事も何度か言ってしまっているけれど、、とにかく真っ直ぐに命を燃やして突き進んでいた。


でも、年月が経ち今はもう違う。

日々勉強と研鑽を重ねながら患者さんを救い、何人もの後輩の指導医にもなっている。自分の信念に基づいた医療をするためには、権力を掌握することが必要なのも、日本医師会会長の佐伯先生や高階センター長の姿を見てよく分かっていた。


俺はいつか病院長になる。そして、俺の信念にのっとった医療を行う。


その目的のためなら、多少の諦めも清濁併せ呑むことになっても、何でもないさ。



「ジュノ、の返上か……」



声に出して、ふと思った。

天城先生はなぜ、こんなことをわざわざ言いに来たんだろう?

慌てて街灯の下に走り、カバンの中に大切に御守り代わりに入っている、天城先生からの俺宛の最期の手紙をそっと出して開いた。



『ジュノ』



文字から、俺をそう呼ぶ天城先生の優しい声が聞こえてくる。最期をたったひとりで過ごした、天城先生の姿が浮かんでくる。

それが辛すぎて、もうずっとこの手紙を開いていなかった…。




『ジュノにはジュノの才能がある』

『まっすぐで』

『諦めの悪いジュノにしか治せない患者が』

『必ず世界のどこかに現れる』

『そのまだ見ぬ患者のために』

『これからも』

『医者としてのプライドを世界に見せつけてやれ』


『いつか必ず』

『世界でジュノにしかできない オペをする日が来るはずだ』



こんなにも力強くて、優しくあたたかい言葉たちだったのか。
天城先生の熱い想いが、今もなお色褪せることなく、俺を励まし、背中を押してくれる。


「天城先生……。

そうか、わかりました、天城先生」



天を仰いだ。

とっくに観覧車の灯りも消え、星のない暗い夜空に、吐く息が白く映る。


目の前の患者さんを救うこと。そのためには何があろうとも食らいついて、諦めない。

それが医者としての俺のプライドのはずなのに、いつの間にか目的がすり変わり、別の道へ踏み出そうとしていた。



「確かに、あっちの道へ進んでいたら、ジュノ返上ですよね……アハハハ…」



なんだか、笑えてくる。笑ってるのに、涙が止まらない。



「あーあ、…天城先生と、もっとずっと、一緒にいたかったなぁ……」



素直な本音と共に吐き出された真っ白な息は、

天から舞い落ちてきた幻のような雪のひとひらと共に、夜の闇に程なく解け、儚く消えていった。



「天城先生……」



命とは、なんですか?



俺たち外科医は、生と死の狭間でいつも戦っている。だから、命とは、救うものだ。



「天城先生……」



もうこの世にはいない指導医の名を、スンスン鼻を啜って絞り出すように呼びながら、



「俺は……俺はこれからも、医者の仕事を続けていきます」



真っ暗な水平線の向こうに、再びそう誓った。

いつの間にかひらひらと、桜の花びらのように雪が舞い降りてきている。



「初雪?そっか、じゃぁさっきのひとひらも幻じゃなかったんですね」



そう、幻なんかじゃない。天城先生は、俺の心に、そっといつも寄り添ってくれていたんだ。触れたら儚く消えてしまう、この雪のように。


一層冷えた空気の中で、温かい記憶が蘇る。

そりゃあもっと一緒に過ごしたかったですけど。でも短くとも、俺は天城先生に大切なことを山ほど教わった。



『何せジュノは 僕と渡海征司郎というふたりの悪魔に愛された、世界で唯一の医者なのだから』




『ジュノ、おまえはいい医者だよ』



──そんなこと、普段なら絶対言わなかったじゃないですか。最後だから、お別れだからですよね。


永遠の別れと引き換えになってしまったこのエールが、当時の俺には、それが苦しくもあったんです。


でも。俺は、悪い意味で、ジュノでした。

自分のことばっかりで。



空を振り仰ぎ、深呼吸した。



「天城先生、、辛かったですね」



天から舞い降りる雪は、その身を捧げるように、ただ静かに降り続いてゆく。



「さ、帰りましょう」



ありがとうございます、天城先生。どうかこれからも一緒に。


髪に肩に、白く積もる雪を触れずにそのままに、未来への決意を新たに踏み出した。


 



fin


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