二つの人生 | 行間を読む

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「ドラえもん」
それは日本で生まれた最高のギャグ漫画。

藤子先生という鬼才の手により…。


基本的には、愛して止まないコミック版「ドラえもん」をもとに、原作にない前後のシーンの展開を勝手に妄想するブログです。
キャラクターの異常行動の紹介もあるよ。

第15話では、会社にすべてをささげる人間(例①)と、衣類をほとんど纏わずに町中を徘徊し続ける人間(例②)という、日本中どこにでもいそうな人間と、かなり珍しい部類の人間の二つの人生が描かれている。

 

例①

 

例②

 

この、本来であれば関わりあうはずがない全く異なる二つの人生に接点をもたらすのが、ドラえもんが出す名もなき道具だ。

 

 

「かぜをうつす機械ならあるけどね。」

 

たった一言の説明だけでいかに反社会的な道具であるかが容易に想像できる。以前紹介した22世紀の欠陥商品でも登場する欠陥商品の、第二弾だ。

 

この道具の製作者サイドにも、どこか後ろめたさがあったのだろう。こういう不完全な試作品のような道具には名前さえ付けられないという、法則のようなものが徐々に見えてきた。

 

例①の人間は、風邪も治り会社に行けることで子供のようにはしゃいでいる様子が音符付きで表現されている。しかし、その不自然なまでに下がった両眉は、ここまでして会社にすべてをささげることが本当に幸せなことなのかという、無意識のうちに彼自身に芽生え始めたかすかな疑問を、われわれ読者に問いかけ、その答えを切実に求めているようにもみえる。

 

 

一方で、例②の人間が、国家権力による拘束の危険性すらものともせずに堂々と布きれ一枚で闊歩していた理由が明らかにされる。

 

 

生まれて一度も風邪をひいたことがないという、とんでもなく強靭なその肉体のせいで医療機関から門前払いをされる彼が、SNSすらなかったこの時代にどのようにしてその看護師を知りえたのか、まったく謎である。

 

最終的に例①の風邪はテロリズムのような強引な手法で例②に移され、両者の間で有用な取り引きがなされた。

ハッピーエンドのように見えるこの話だが、例①が一瞬みせたあの悲しげな表情が読者の中にわずかな違和感をもたらし、それがいつまでたっても消えることなく残り続けるのだ。