いやぁ、この時期に聴く「枯葉」って、やっぱいいっすよね。
元々は、シャンソンで原題を「Les Feuilles mortes」といいます。しかし、今日では英題の「Autumn Leaves」が圧倒的に人々の耳に馴染んでいることでしょう。50年代にアメリカに輸入された同曲はピアノのインストゥルメンタル版やフランク・シナトラの歌唱(上の動画)によって大ヒットし、秋のポピュラー・ミュージックの大定番として今日に至ります。
物悲しい晩秋に終わった恋の思い出をかみしめるっていう曲の世界観は、まぁベタっちゃあベタなんですが、だからこそ時代を超えて愛されているともいえる。たとえ陳腐でも、いや、陳腐だからこそ、多くの人々の心に届いて、慰めたり寄り添ってくれるのがポピュラーミュージックの美点ですからね。その点でやっぱり枯葉は名曲だと思います。
また、非ポピュラーなJAZZ界隈の人々にとっても「枯葉」は特別な意味を持った曲だといえます。マイルス・デイヴィスの「枯葉」、ビル・エヴァンスの「枯葉」等々、JAZZの巨人たちによって名演とたたえられる多くの「枯葉」が生み出され、JAZZ界においても最重要なスタンダードのひとつとして定着しているのです。
JAZZにおける枯葉は聴き比べるのが面白い。みんなが知ってるリリカルなメロディーと世界観をいかにして自分の色に染め上げるか。偉大なジャズメンたちはそこにこそ腐心してきたといえるでしょう。枯葉の世界に浸りたい!という聴衆の期待に応えるのか、それとも思い切って解体するのか、ジャズメンたちのその選択をみるだけでもなかなかスリリングで楽しいものです。また、枯葉という定点から様々なミュージシャンを観測することでミュージシャンごとの個性がはっきりと見えてきます。私はJAZZの本質は独創性の追求だと思うので、もし「枯葉」の定点観測によってミュージシャンの個性がわかってきたならば、「JAZZってこういう風に楽しめばいいんだ!」っていう気づきにもつながるのではないでしょうか。
さぁ、ここからは「枯葉」の聴き比べとまいりましょう。「枯葉」の名演は数あれど、JAZZのピアノやら歌については、私が語れるほど語彙を持ってないもんで、今回は2人のトランペッターの枯葉を取り上げるにとどめたいと思います。あとは皆さんで色々探してみてね!
まずは王道、マイルス・デイヴィスの枯葉から
マイルス・デイヴィスといえば、初心者には難解な印象が強いようです。私とてそれは例外ではなかったのですが、耳に馴染んだテーマを割と崩さずに吹いてくれるこの演奏は、初めて聴いたときすんなり入っていくことができました(崩しまくってる演奏もあるけど)。私にとっては、マイケルジャクソンのカヴァ―である「human nature」と併せてマイルス入門の一曲でしたね。
まず雰囲気がぴったりじゃないっすか!もはや原曲よりも「枯葉」っぽいとすら言えるのではあるまいか。シンプルなビートの上でマイルスの喇叭がポツリ・ポツリと語ってます。音の数は少ないですが、だからこそフレージングとか音の間をたっぷり味わってほしい。またミュートの喇叭がねぇ、いいんですよ!感情を押し殺してもなお漏れてくる感じで。さらに、さんざんマイルスの世界に酔いしれたあとでおなじみのテーマに戻ってくる構成がまたニクい!最後のテーマの一番エモーションが高まるところで、キーーーン!と、しっかりミュートを鳴らしての吹きのばしを聴いた瞬間、もうイクぅーーーー
![ドキドキ](https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/031.gif)
ですよ!
どこまでも渋い、クールなマイルスにイかされたい人おすすめの「枯葉」です。
さて2曲目はチェット・ベイカーの「枯葉」
喇叭を吹くジェームス・ディーン、ジャズ界きっての色男、チェット・ベイカー。若いころは実力もさることながら黒人音楽のJAZZに誕生した白人イケメンスターということもあってアイドル的な人気がありました。しかし生涯にわたってドラッグとの関係が切れることなく、この「枯葉」を吹き込むころには身も心もすっかり枯れてしまっていました。しかし悲しいかな、中性的な甘いヴォーカルと、それをそのまま置き換えたような喇叭はなお美しかった。
さて「枯葉」についてですが、マイルス版とはまるで違います。エレクトリックなピアノサウンドに象徴的ですが、非常に都会的で近代的なイメージです。アップテンポでリズムセクションが暴れている上で、チェットの喇叭が、ポールのアルトが、甘い旋律を奏でます。細かいリズムとアドリブが折り重なり絡み合いながら終焉に向かってとめどなく流れていく。チェットの温もりのあるサウンドがリズムの海に揺蕩っている、そんな感じでしょうか。個人的にはラストの直前にアルトがメインのテーマを甘く切なく歌うところがたまらんですね。ここまでノンストップで流れてきたところで、フッと甘いメロディを聴かす、この緩急!泣いてまうやろー!
チェットの温もりを感じたい!という方にはこちらがおすすめ。
今回取り上げた「枯葉」が聴ける音源
Somethin’ Else/Blue Note
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マイルスの「枯葉」が入った1枚。キャノンボール・アダレイの名義だが、実質はマイルスのリーダー作。JAZZの大名盤のひとつです
枯葉/キングレコード
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チェット・ベイカーの「枯葉」が入った1枚。ファンとしてはこのアルバムで、彼のヴォーカルの魅力にも触れてほしいところ
キーワード:Miles Davis・Chet Baker・Frank Sinatra・Autumn Leaves