- ■マスメディアが今後、ネット時代に生き残っていくためのオプションを
提示している極めて明晰で読みやすい新書のマスメディア産業論。 - マス、ネット、マーケティング、ユーザーインサイト、ビジネスコンサルティングに通じた著者が
- 流れるようなスマートな筆致で読ませる。マス、ネットどの領域の人にも勧めしたいと思った好著。
マス礼賛、ネット礼賛などに組せず、ビジネスを考える提言書として価値高い。
ここ数年のメディア論の中でも数段に、理性的かつ納得性の高い著作。
- グーグルに勝つ広告モデル (光文社新書 349)/岡本一郎
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■マスメディアビジネス論である。しかし、ビジネスモデル論、メディア論、コンシューマーインサイト論、
意思決定論、社会変動論、マーケティング論として、データとメディア本質的価値の検討から
バランスよく扱い、生き残りオプション提示した本。
いくつかの著者の提言を挙げてみとると、
■マスメディアの本質は「アテンションの卸売り」(グーグルは「インタレスト」の卸売り)と
と本質的な整理を行ったうえで、例えば、TVであればオンデマンドポイントキャスト事業で
「ターゲティング×情緒メディアへの進化」による単価アップを提言。
そこでは過去コンテンツストックの最大活用による効率的運用でコストを下げる。
と同時に、現在の収益源となっている現業との併走で事業性の担保を行う、など
具体的な論旨展開になっている。
新しいビジネスをどう開発して軌道に乗せるかという、視点が既存メディア業界には新しく映る。
今後、マスメディアが「アテンションの奪い合い」という「アテンションの仕入れ」で競合していくのは、
自らが生み出してきた「過去のコンテンツ」であるとの指摘は鋭い。
人はすでに消費できないほどの過去コンテンツを抱え、あふれさせている。
それゆえ現在、ネット、グーグルの価値があり、マスメディアは自分の生み出した「過去のアセット」を
活かして戦う、あるいは収益モデルを変えるのかということになる。
基本的には、新聞や、ラジオ、雑誌でもターゲティングやコンテンツ特化(例えば、
地域、クラシックなどの特定コンテンツ)による単価アップのオプションが論理的に
ビジネスモデルとして述べられてる。
既に持つ、膨大なコンテンツストック、制作力、宅配制度などのインフラの活用提言など。
■また、メディアビジネスが「メディアが先に生まれて、市場の文脈の中でコンテンツが生まれる」
という流れが進む中で、クリエーターは枠組みとコンテンツ両方への視点が求められる。
■新しいサービスは必ずしもファーストエントリーである必要はなく、技術とコンテンツを
合わせたエントリータイミングの重要性にも言及。
グーグルも検索を最初に始めたわけでなく、予測がつかない市場での動きかた、
タイミングの見切りにももれなく触れている。
■これらの論は圧倒的に目新しいものかと言われるとそうではないが、これまでの
メディア論と一線を画しているのは、著者が常に冷静にデータと消費者インサイト、
メディアの本質的価値に基づいた、説得性の高いオプション提示を行っている点だと思う。
■本書の別な側面からの重要な視点として、常にマスメディアの将来的ビジネス価値と
社会的インフラ価値を合わせた視点から論理的な説明を行っている点がある。
妄信的なマス礼賛論ではなく、また根拠の薄いネット礼賛、時代変革論でなく、
メディアの本質的価値は何かをきっちり説明している人は少ないと、私は感じていた。
そうした中で、著者は、ターゲティングが進めば進むほど、マスの価値である
・多様な言論に触れて議論が生まれる偶発接触性の低下、
・社会的連帯感の喪失、
・信頼できる情報を生み出す「知のバリューチェーン」の崩壊懸念
などをマスおよびネットメディア拡大の基盤を揺るがす可能性に言及している。
限りなくコストゼロに向かいかねない、ネット社会の動きは不可逆的であるが、
言論と知識の社会インフラ論は、冷静な議論を呼ぶ意味で傾聴に値する。
代表的なネットの集合知であるウィキペディアは信頼性も高まる一方で、
情報源も元はといえば信頼できるマスメディアで、ウィキぺディア自体も
「信頼できる」ソースはBBCやNYTを挙げている、など。
■本書はビジネスコンサルタントの戦略提案書としても読める。
メディア分析の3つのフレームワーク
・提供情報
・情報の消費シチュエーション
・アクセススタイル
さらに本質的価値として、例えば社会との連帯感、つながり感など、を
ベースにして分析。
ビジネス提案として、装置産業、取引コスト、限界利益、資産回転率というように
マスメディア論では言及されにくい、モデル論から提言を組み立てている。
■著者の深さは章末に引用される箴言、警句にあらわれている。
マキャベリ、モリエール、葉隠、司馬遷などの箴言、警句が深みを与えている。
こうした文言はややもすると衒学的、かつ鼻につくものが多いのだが、
著者の論理明晰性と相俟って、章ごとの止めとして有効に機能している。
■私はいくつかのコンサルティングファームからの、メディア変革提案や
ビジネスモデル提案、収益性改善提案を見たことがあるが、著者のこの新書は
概略として、ネット時代のマスビジネス提言として優れていると思った。
著者の本格的な提案書や本書に続く著作(最終章のこれからのマーケター論の発展版)
などをとても見てみたいと思っている。
■私は直接の面識はないものの、ある仕事に関わったことで、岡本一郎氏を
よく知る人々から岡本一郎氏のことを聞き、関心を抱いていた。
あえて挑発的なタイトルをつけているのは、著者の卓抜なマーケティングセンスからだろう。
メディアストラテジスト、アカウントプランナー、ビジネスコンサルタントとしての
とても高い能力を持つプロフェッショナルと聞いている。
切れ味鋭い筆致と奥深さに感服しつつ、何らかのお仕事をしてみたいと思っている。
妙な言い方だが、著者のメディア産業とコンテンツへのベタベタしない、
理性的な愛をこの著作から感じ取った。
著者はきっとネットメディアにも理性的な愛を注いでいるとも思う。
そうした点からも次の著作を強く望みたい。