【著者とのコラボ記事】

■ゲイバーとマッチングアプリ ゲイの出会いを媒介する場の諸相
木谷 幸広
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<私とゲイバーの原点>
私が18歳であった1987年の日本は、バブル景気に沸いており、求人は、学生優位の「超売り手市場」であった。
商業高校に通っていた私は、多くの同級生たちと同じく就職することとなり、岐阜市内の中核病院である私立大学の附属病院に就職(医事課)した。
当時、老人の病院窓口での自己負担は無料で、月に一度医療機関に「800円」負担すれば月に何度受診しようと無料であった(その後負担率は上がっていく)。
そのため、睡眠導入剤であろうがなんだろうがどっさり患者に投薬していたような状態であったので、病院の経営はどこも潤沢だったはずである。
病院に勤務する男性職員の中で、独身者は数人しかおらず、バレンタインには大きな手提げ袋にいっぱいのチョコをもらった。
とっくに自分が「ホモ(当時は自他ともに『ゲイ』ではなく『ホモ』と呼称していた)」である自認はあったのだが、なんとしても隠し通すほかに選択肢などなかった。
セクシュアル・マイノリティに関する情報など得ようにも媒体すらほとんどない時代で、とにかく「彼女」を作るしか方法が思い付かず、同じ医事課に勤務する同年の女性職員と付き合うことにした。
彼女はとても素敵な人で、私たちは仲が良く、休みの日はいつも一緒に過ごしていた。
しかし、「情」はあっても体ごと受け入れられないことや、職場のタイトな社会規範意識に苦悩した私は、「岐阜から出るしかない」と、名古屋市内のファッションデザイン専門学校に進学することを選び、病院からも彼女からも「逃げる」ように退職し、名古屋に転居した。
それと同時に「ホモ(ゲイ)活動をする!」と決意し、異性愛者の仮面を被って付き合っていた友達との連絡はすべて断ち切った。
専門学校は学費の安い夜間コースを選び、昼間はアパレルの販売員のバイトをした。そこは、どこのファッションビルにも店舗のあったDCブランドで、無借金経営の小さな会社だった。そのためバイトであっても本社の部長クラスの人とも面識があり、部長から「東京の本社の企画で働かないか」と誘ってもらっていた。
ちょうど専門学校は二年間の「基礎コース」を修了見込みだったので、専門課程に進むかどうするか、進路を考えている時期だった。
この頃、週末は名古屋の「女子大小路」という繁華街にあるゲイバーでバイトを開始していた。その店のレギュラースタッフから「もう辞めたいから代わってくれない?」と相談を受けていた。
東京での就職、専門課程への進学、はたまたゲイバーのレギュラーという選択肢はあったが、その時は何も決められていなかった。
セクシュアリティを隠して生きることにしんどさを感じていたが、酒はまったく飲めないし、もしゲイバーを選択したら家族や親戚になんと伝えればいいのかと思い悩む日々を過ごしていた。
ある日、同じパルコ内の別ブランド店に勤務していて、ゲイをオープンにしている友達が私の働く店で服を買ってくれたことがあった。
その光景を目にした同僚(女性)が「はーん」と言い、「木谷がその二人と知り合いである=木谷はホモである」とすべてを悟った嫌な顔を見せた。そして、次の日には名古屋の店舗のすべての従業員が知る事態となった。
名古屋の全従業員に知られたということは、東京本社にもすぐに伝わるだろうと、保留にしてあった本社行きの話もそのままに「逃げるように」退職した。
私は「カミングアウト」などしていない。
それなのに決めつけられて、かつ、「アウティング」されたことにかなりの衝撃を受けた。
こんな恐ろしい世の中ならば、もう同じセクシュアリティの人々の中で仕事をしていくしかない、と、岐阜から逃げてきて名古屋に来たのに、再度逃げることとなった。
このような被差別体験がきっかけで、1994年、ゲイバーのレギュラースタッフとなった。その後、1997年に自身のゲイバーを出店し、観光バー(スタッフはゲイで、客はどんなセクシュアリティでも来店OK。女性客が多い)や、美容室などを展開する法人を設立した。従業員はすべて「ゲイ」である。
そうしたことを含め、ゲイバーを利用する人々と、ゲイバーが点在する名古屋市中区栄4丁目・5丁目の「女子大小路」という繁華街のことをフィールドとした研究をするために2019年、大学院に進学し、その修士論文をもとに執筆したものが、この書籍である。
性的指向が同性ということで大いに悩んでいたあの頃。10代、20代のときの「私」に伝えたい。
「ゲイバーや、多くのゲイの人々のことを描いた本を出版する日がくるよ」と、そして「広島という地に移り、本名でLGBTQ+について発信するようになる」ということを。
木谷 幸広
■ゲイバーとマッチングアプリ ゲイの出会いを媒介する場の諸相
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