北国（東北）に引っ越して来て半年が過ぎた。

移住は仕事の都合であるから、自分の意思ではない。とはいえ環境ががらりと変わるのはそれなりに楽しいものだ。私は運転免許がないから、地方生活は難しいのではと移住前に友人らには心配されたが、住んでみればそれほど困らない。いや、困らないと言うのは、嘘である。結構困っている。何しろだった広い。ちょっとスーパーに行くというだけで割と大変だ。通勤も結構しんどい。ろくに電車も機能していない。それでは自転車でとなるわけだが、雪でも降りようもんならまず乗れない。一度凍った路面に自転車を走らしたが、なかなかの転倒っぷりを披露するはめになった。スーツのズボンが破ける程度でおさまったが、そこそこ恐ろしい体験だった。

そう言うわけで、最近はもっぱら徒歩である。元々徒歩は好きなので、それほど苦ではない。けれど、高い建物がなく（だいたい２階建て。３階は珍しい）、遠くまで見通しが良いという立地は、ビルが密集し先の見えない都会とは違い、いつまで経っても到着しないという心理的効果が産み出され困る。それから暗い。夜道ともなると街灯がほとんどない通りも多い。

先日前方から奇妙な黒い影が私に向かって進んできたことがある。頭が不自然に大きく、照らし出す僅かな光も逆光で、ほとんど大きな黒い塊のような影だった。人間だろうとは思った。他にあり得ない。とはいえ、なんだかよく分からないものに対しては不安が生まれる。私は妖怪変化の類いは信じてないが、異様な風体の影がこちらに近寄ってくるというだけで結構厭だ。

すれ違ったタイミングで影の風体がようやくわかる。なんのことはない。背負っているリュックサックの上に更に荷物を括りつけていただけだった。ふうと一安心したが、よくよく考えれば、向こうだってこんな灯りもない夜道に向こうから人が歩いてきてるってだけで、だいぶ厭だっただろう。

そう言うわけで北の生活はなかなかスリリングだ。馴れるのに時間がかかりそう。