そうして迎えた初ライブはもちろん超満員!

……なんて訳は無くガラ空き。

当時付き合ってた彼女がうちのおかんと一緒に来てたのと他の出演者の知り合いらしき人たちが数名いただけ。

演奏曲は全てカバー。

それなのに底抜けに楽しかった。

まるでロックミュージシャンになった様な気分で歌った。

それまでにバントの穴を埋めて欲しい的な助っ人を何度かMAaと経験もしていたけどまるで格別。

その1日だけで終わるのがたまらなく惜しいと思った。

今までは客観的にもりやとじゃがのライブや演奏を眺めていて感じていた魅力が一気に振り切った。

一緒にバンドが組みたいと心の底から思った。

その日からというもの俺の残りの高校生活はもりやとじゃがに会う事が楽しみに変わっていた。

学校が終わったらすぐにじゃがの家に行きオムライスを作ってもらい(言い忘れたけどじゃがはファミレスで働いていたので料理が上手い)日が暮れるともりやを起こしに家まで行った。

そして朝まで音楽を聴いたり恋愛の話をしたり将来の事について話した。

もりやとじゃがに影響されて俺は、、
というよりは二人の感覚に近付きたくて俺は音の良いヘッドフォンをオークションで買ったり、MP3プレイヤーではなくCDプレイヤーに拘って音楽を楽しんだり、マニアックなロックミュージシャンのCDをブックオフで何時間も探したり、それをリュックに入れて毎日散歩をしたり、ブラックコーヒーを飲む様になったり、日記をつけたり、小説を毎日毎日読んだり

感性が豊かだった二人のする事は何でも真似した。

ある日、もりやよりもノーテンキなじゃがに俺はいつもより真面目な顔をして伝えた。

「一緒にバンドがしたいよ。」


「いいよ。もりやが良いって言えば良いね。」

予想通りの返答だった。

じゃがはもりやの事を心から信頼して見守っていたからだ。

もりやにそれを告げるのには勇気が必要だった。

なんとなく。

フラれるのが嫌だっだからかな。

それからEach ROCKとしてもう二回ライブをした。

話すにもドラマチックな展開がそこにもあったんだけどそれはまたいつか。

とにかくその二回を経て俺はいっぱいになったその心をもりやに告げた。

「一緒にバンドしようよもりや。」

その時の事を俺ははっきり覚えてる。

もりやは煙草の煙を何度も吸って吐いて俺に言った。

「僕は、はやしくんとバンドは組めないよ。」

その言葉だけで充分伝わった。

なんとなく。

Each ROCK
(それぞれのロック)

このバンド名をもりやが付けた時点でそう決まっていた様に思う。

それぞれのロック。

俺ともりやは違ったんだ。

諦めきれないその気持ちを消化するのは正直とても時間がかかったけど。

その後、もりやは新しいギターボーカルとドラムを入れてバンドを組んだ。

俺が立ちたかった場所に立っていたヤツはりゅうのすけ君って名前だった。

「練習をしない」
「何がしたいのかわからない」
「心を開いてくれない」

もりやはそんな風に俺によくりゅうのすけ君の相談して来てたけどその都度俺は

「俺だったらそんな想いさせないのに。」

「俺だったら一生懸命歌うのに。」

「何で?一体そいつのどこがいいんだよ?」

心の中でそう思っていたけど

「上手くいくと良いね。」

っていつも嘘をついた。

MAaとのバンドも当初終わっちゃってひとりぼっちになった様な気分になって

音楽が宙に舞って飛んで行ってしまう様な気持ちになって散歩ばかりしていたのを覚えてる。

それからホントくだらない事がきっかけで、俺はもりやと一切連絡をとらなくなった。

喧嘩した訳じゃなくて、お互いの心の置き所が違うんだって本当の意味で気付いてしまって

俺の心はもうもりやに反応しなくなってしまった。

道でバッタリ会っても、前みたいにそのまま公園に向かって音楽の話をする事も無い。

それから2年後。

俺はいくつかのバンドを経てBrand New Vibeを結成させました。

もりやの音楽の話は全く聞かなくなり

じゃがは今もまだ成瀬のファミレスで働いてるらしい。

130日を越えるランニング中の夜

何年ぶりかにすれ違ったもりや。

ヘッドフォンをしていた様に見えた。

何故声をかけなかったんだろう。

何故声をかけて来なかったんだろう。

ランニング中だったから?

気付かなかったから?

散歩中だったとしても

気付いていたとしても

お互い声はかけなかったと思う。

なぜならそれはきっと選んで来た道を後悔していないから。

お互いのそれぞれの道を今も真っ直ぐ歩いているから。

変わってないお互いの心がそこにあるからだと俺は思いました。

これが今も先も変わらない

はやしくんと、もりやと、じゃがと、もりくんの

それぞれのロック。

おわり。


敬太郎でした☺︎