【学生戦争】SS「全面戦争/1.のまれる」 | 54分室 B館

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○月×日、夢と現実の間にて。


前作「0.たそがれ」の続きが出来ました。
待ってて下さった方、ありがとうございます。
待ってなかった方、これからどうぞよろしくお願いします。


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「待って!せんぱ―っ」
言うが早いか飛び出すが早いか、僕は走りだした。
しかし、先輩が振り返るよりも早く振り下ろされる刃。
その切先がわずかに彼女をとらえた。
「きゃ…っ?!」
「先輩!」
よろけた先輩の腕を掴んでそのまま後ろに引き寄せる。
横目で見ると、先輩はその細い指で右肩を押さえていたが、
どうやらほとんど出血はないようだった。
「だ、大丈夫ですか?」
「―えぇ、平気。それより、何が…」
安心したのも束の間、絽來の方に目をやると、
彼は顔色一つ変えずただ佇んでいた。
「……つき…トらえ…」
何か口にしたようだったがまるで聞こえず、
話しかけようかと僕が口を開いた刹那。
彼は下ろした剣を構え直し、思い切り地を蹴った。

僕はバックを放り投げると、同時に背負っていたケースの金具を外した。
昔は時間がかかっていたけれど、今じゃもう手馴れたものだ。
中の弩を瞬時に掴んで引き出し、矢を番えた。
その矢の先を、絽來へ…
だが絽來もそれを簡単には許してくれない。
彼の振るった剣の先が鼻先すれすれを通り過ぎた。
僕は反射的に仰け反る。
うわっ、と思わず洩れる声。それでもなお追ってくる刃を何とか避けた。
「尤!」
後ろで先輩の声がする。だがそれに応える暇さえもない。

「絽來さんやめてください!一体、どうしたっていうんですか?!」
返事の代わりに容赦なく続く攻撃。
ギンッという鈍い金属音。
何度か弩に剣が当たり、その度に手に痺れが走った。
隙を見て矢を放とうとするが、まるで話にならない。
元々接近戦はあまり得意ではないし、何より相手は絽來さんだ。
躊躇している僕をあざ笑うかのように、彼はどんどん間合いをつめてくる。
「白…ノ…、いつキ…ユう、を…らエろ…」
攻撃の合間、彼は何度も何度も同じことを呟いているようだった。
「絽來さん!」
理解し難い状況に耐えられず、僕はもう一度叫んだ。
しかしその直後、その隙をついて、彼の剣が僕の左腹をえぐった。


***


何が起こったのか、よくわからなかった。
気分の良かった私は、絽來さんの姿を見て、
今日という今日こそは一泡吹かせてやろうと思っていた。
―それなのに。
彼は、黙ったまま近付いてきて。
顔色一つ変えず、剣を振りかざしてきた。

予想もつかない…いや、出来る筈もない出来事。
後ろから引かれた勢いのまま後ろに下がって。
脳で考えるよりも反射的に右肩を押さえた。
「だ、大丈夫ですか?」
聞きなれた優しい声が震えている。
右の肩が熱くて、痛くて。
その時になってようやく、私は斬られたのだと理解した。
それと同時に、全身の血がスーッと下がっていく感覚。
不思議と冷静な自分がいて、今何をすべきかを教えてくれた。
…目の前で絽來さんと尤さんが戦っている。
止めなくちゃいけない。
尤を、助けたい。
先輩として、仲間として。
それに…
「ぅあ…っ!!」
彼の悲鳴にも似た声に、私は風を切った。


***


完全に体勢を崩した僕に、コンクリートの地面が追い討ちをかける。
勢いよく背中を打ち付け、痛みと同時に体中の空気が一気に持っていかれたような感覚になった。
加えて、腹部の辺りがひどく脈打つように痛い。
すぐに起き上がることも出来ず、体を丸め、短く荒い呼吸を何度も繰り返した。
と、ゆっくりと近付いてきた足音が、僕のすぐ近くでピタリと止まった。
やられる。
僕はとっさに目を瞑った。だが相手に動く気配は無い。
恐る恐る見上げると、虚ろな目をした絽來さんの顔。
「ゆ、う…」
微かに唇が動いて、僕の名前を呼んだ。
そして続けて出た言葉に、僕は凍りついた。

「トらえ、ろ…」

今、何て…?

「白軍の…」


「白軍の指令塔、樹と尤を捕らえろ」


彼が言い終わるのとほぼ同時に、先輩の脚が絽來の背中をとらえた。
絽來がよろけた隙に何とか立ち上がり、僕と先輩は距離をとる。
(大丈夫?)
目で先輩が聞いてくる。
小さく頷くと先輩は微笑んで、すぐに戦闘体勢をとった。
―先ほどの言葉、先輩は聞いただろうか?
しかし確認する暇などもなく、絽來が攻撃を再開した。
もう一度、先輩が蹴りを放つ。
それを絽來の腕があっさりと受け止めて流した。
短い悲鳴とともに先輩が体勢を崩す。
そんな彼女に容赦なく剣を振るう絽來。
僕は迷いなく引金を引いた。



…、はずだった。

風を切る音。
あるはずの反動。
どれもがまるでなかった。

普段と違う手ごたえに、手元を見て愕然とする。
弓を繋ぐ2本のワイヤーがぷっつりと切れている。
いや、違う。
切れた。
今まさに、目の前で。
それは爆ぜるように跳ね上がった。
どうして。
今までこんなことはなかった。
1度だってワイヤーが切れるなんてことは、なかった。
それはつまり、つまり…
「運が悪かったってとこだろーね」
突然耳元で笑い声がして。
直後首の後ろ辺りに痛みが走った。
ゴッと鈍い音が体中に響いて、目の前の世界が揺れる。
一気に体の力が抜けて、僕はその場に倒れこんだ。



・・・。



「跡形も無く引き上げろって言ったって、ねぇ?」
シンと静まり返った道端に、楽しげな声が響く。
しかしそれに応える者はいない。

「荷物も全部持ってこいって…めんどくさ」
それでも独りブツブツと文句を言いながら、長身の男は道に伏している少年を
軽々と担ぎ上げ、続けざまに散らばった荷物を拾い上げた。

「おーいそこのわんこ。ちゃんとそれ持ってきてよ?」
黙って佇んでいる男にそう呼びかけると、返事は無く、けれど理解はしたようで、
目の前に転がっている少女をそっと抱きかかえた。

空に顔を出した月だけが、ただ静かにその様子を眺めていた。



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今回も尤視点+α。
わかりにくいわ長いわで読みにくいことこの上なくてすいません;

やー、捕まっちゃったよ…
この後どうしよう; 過酷なシーン多くて辛い;
いや、wktkだったりもするけど…耐えられるかな、僕がww

ちなみに記事をアメンバ限定にするか、についてですが、
普通の記事でよいのでは、という意見をいただきました。
アドバイスありがとうございました〃
確かに(色々な意味で)そこまでじゃないかなぁと思いましたので
そのままでいくことにしました。

それでは。