東京都の青少年向け図書規制条例の審議が、表現の自由を侵す可能性があると報道されています。
 僕は昔からHeavy metalが大好きでしたので、この手の規制には、いい加減うんざりします。
 まったく、もう少し頭を働かせてくれよ。
 不道徳な芸術はいけないって、芸術ってのは元来不道徳なもんでしょ。
 性行為の漫画を見たら、あんたたちはすぐに性行為をするのか?殺人事件の推理小説を読んだら、人を殺すのか?サタニズムのHeavy metalを聴いたら、悪魔崇拝になるのか?
 確かに、性行為の漫画を見たら興奮するだろうよ。しかし、興奮を生む誘引は、何も漫画だけではない。世界のあらゆる事象が、我々の欲望を刺激しているわけです。みな、中学生の頃を思い出して欲しい。漫画なんかより、学校の隣の席のかわいい女の子のリンスの匂いのほうが、男子中学生にとってよっぽど大きな性的興奮の誘引でしょ。
 だからといって、リンスのにおいをかいで興奮した男子中学生が、隣の席のかわいい女の子をレイプするわけじゃない。中にはそういう逆噴射系男子もいるけれども、確率は大変低い。そうじゃなきゃ、全国の女子中学生の貞操なんて、ひとたまりもなく破られてしまう。外部情報に刺激を受けて脳内に欲望が発生することと、実際に行為に至ることの間には、大きな隔たりがあるです。ですから、不道徳な漫画を禁止しても、その効果は興奮イコール行為という、ごく稀な壊れちゃったヒトたちの中の、さらにその漫画をこよなく愛する読者にしか及ばないに決まってる。
 では、本当に青少年の非行に関与しているのは何か?それは、一般社会との関与の喪失ですよ。結局我々人間は、頭の中に浮かんだやりたいことの殆どを、不適当なものだと淘汰して、社会的に許容されるものだけを実行しているわけです。その淘汰過程が働かなくなる状態のほうがよっぽど危険です。一般社会に愛着を感じなくなったら、そこからドロップアウトするリスクを負うことに恐怖がなくなります。すると、社会的に許容されるものだけを実行する淘汰過程が機能しなくなります。この段階に障害が起きれば、それこそ誘因になる刺激なんてなんだっていい。ちょっとしたことが世紀の大犯罪につながりかねない。
 よって、青少年向け図書規制条例なんて、有効確率はおまじない程度なのに、表現の自由を侵害する確率は、100%です。医療の世界で考えたら、激烈な副作用のある、ろくに効かない薬であることが目に見えています。
 むしろ、 人間は漫画や絵画の世界に欲望を投射することによって、現実世界での暴発を防いでいるわけで、そういった仮想世界への投射機能を失ったら、逆に現実世界で欲望を成就しようとするヤツが増えますよ。
 政策というヤツは、いつも事件の表層に見える、皮相な誘因ばかりをもとに導きだされています。役人や政治家は、「はっきり目に見える事実をもとにして責任を持って政策を立案しているんだ」というんでしょうが、本当に重要な「何故」はもっと深いところにあって、直接には見えない。大切なものは人間の目には容易に見えないということを認識して、もっと謙虚に原因検索と対策立案を行うべきです。