パキシルは、なんだかのみ心地のよくない薬だ。
 これをのむと、実はかなり急激に元気になる。2~3週間しないと効かないというのは客観的な雑な話で、より繊細な主観的感覚としては、のんで1日もすると元気になるのがわかる。無理矢理元気になりたければ、数日間10mg多くのめばいい。そうすると、次の日にはもう、ちょっと違う感じになる。
 でも、この薬による元気は、なにか不自然だ。軽薄というか、表面的というか、ヒステリックというか、線の細い元気なのだ。なにもかもがどうでもよくなるような感じもある。悩みがなくなるともいえるので、いろいろと心に引っかかりがあるようなヒトにはいいだろう。
 しかし、双極性障害ではそうはいかないのではないか。双極性障害の人格は、比類なき熱狂と、冷酷なまでの内省の両面をもっている。その二つが時間的に統合されていない点こそ、この病気の本質のように感じる。パキシルはこの「熱狂」と「冷酷」を融合させ、双極性障害患者の人生を「冷酷な熱狂」に突き上げる。
 また、双極性障害の奥底には、うつ病とは違う、より怪談じみた底流がある。人間らしい葛藤や悩みではない、簡単にこの世を捨ててしまいそうな衝動性だ。そこは本当はパキシルではどうともならない。パキシルは上滑りして、どこかへ行ってしまう。むしろ、他者との絆という、我々患者をして自殺を踏みとどまらせている最後の一線を、「もういいや、どうでもいいや、ハハハ」と思わせてしまうように感じる。あと、誰かと大喧嘩して人間関係を破壊しても、「どーでもいいじゃん、あんなヤツ」と思わせてしまう。
 すごい薬だが、ちょっとヤバい薬だ。