生まれて初めての山頂テイクオフ。1994年1月9日の午後5時。雪かきをしながら上った岩屋山山頂。標高約700m。山里はうっすら雪化粧。


正面から絶好の風。インストラクターが「ゴーッ!」の声とともに、手を振り下ろす。夕日を横から受けながら、そっと機体を立ち上げる。一歩二歩と坂を駆け下りると、翼が後ろから追いかけてきて真上に立ち上がる。さらに加速。地に付いていた足が空回りし、すると体はふわっと浮き、全身が大空へと飛び出した。


両耳で風の音が聞こえる。下をみたら、一面の銀世界。家が非常に小さく見え、自然の大きさ、人間の小ささがよくわかる。こころが震えるような感動。感動のあまり、舵をきるのを忘れていた程。先生!左!山に当たる!」の声で我に返った。左旋回。


胸に熱いものがこみ上げてくるような不思議な感じ。こどもの頃に感じた以来の、この感覚。右に、左に、ブレーキコードの指示どおり、機体が旋回。まさに鳥になった瞬間だ。

パラグライダー


高度を調整しながら、ランディングを目指す。段々と家が大きく見え、そして人影が大きくなってくる。ゆっくり移動していた地面が、だんだんと加速してやって来る。最後は右旋回し正面から風を受けながらランディング。


生まれて初めてのフライトは、短いものだったが、感動の10分間だった。


人間には、五感があるという。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。TAKさんは言う。人間には、浮遊覚がある。浮く感じは、どの感覚にもあてはまらない。」と。まさに第六感


こどものころ、サンテクジュペリの星の王子様のきつねの言葉が好きだった。大切なものは、目に見えないんだよ。」パラグライダーには、目に見えない大切な何かを教えてもらったように思う。