もしも、君が僕を嫌いだと言っていなくなってくれたのならば、僕はきっと引きずることもなかったのかもしれない。
僕の行動範囲は広くない。どこへ行っても君との思い出がぼやけて見えてくる。それでも僕は君に会いに行く権利も勇気もない。
なんで喧嘩なんてしてしまったのだろう。僕はこんなにも君が好きだったのに。
気付いてほしいとか察してほしいとか、そんなわがままで拗ねたりして君を困らせた。挙げ句の果てには怒り出して君と口を聞かないまま、君との別れの日が来てしまった。
もし許してくれているなら連絡してほしい。
そんな連絡が来ないことは分かっていても携帯が震える度に君を思い出すんだ。
心ここに在らずな僕は仕事で失敗を繰り返し辞めざるを得なくなってしまった。
僕は呆然としたまま日々を過ごしていた。
ある日、メールが届いた。
未だに期待してしまう僕自身が嫌になる。
けれど、液晶に書かれた文字は間違いなく君の名前だった。
僕は驚いた。涙を流した。
泣きながらメールを開いた。
『件名 誕生日おめでとう!』
ああ、そうか、今日は僕の誕生日か。
少し気持ちを落ち着かせて、ふと思った。
まだ連絡取れる状態だったんだ。とっくにメールはもう届かないものだと思っていた。
『本文
この間はごめん。
本当は気付いてたんだ。
君が僕のこと好きなんだってこと。
でも怖かったんだ。
受け入れてしまうことも、拒絶してしまうことも。君との関係が変わってしまうことも。
それでごまかすような態度を取ったんだ。こんなことになるなら、正直に話していれば良かった。
早く謝らなきゃと思ったけど勇気が出なくて、誕生日を理由にして連絡してみました。ごめんなさい。
もしブロックされてたらこのメールは届かないけど、届いていて君が読んでくれていたら嬉しいです。とにかくごめん。』
途中まで読んで涙が出た。
いつも一行か二行程度の文章しか送ってこない君がこんなにも長い文章を送ってくれた。それは紛れもなく僕のことを考えてくれたからだ。嫌われてなんかいなかった。むしろ僕の心配までしてくれていたなんて。
大丈夫だよ。ちゃんとメールは届いてる。僕がブロックなんてするわけない。
涙を拭いて続きを読む。
『もしかしたら、メールが来たことに驚いたかもしれない。実はこのメールだけは君に届けたくて、親に無理を言ったんだ。
・・・本当にごめん。君と喧嘩になったあの日から考え続けたんだ。
・・・僕も君のことが好きだった。
今更でごめん。もっと早く気付いていればよかった。そうしたら君を怒らせることもなかったのに。
でも、だけど、だからこそもう僕のことは忘れて。
会いに来ようとなんてしないで。
君は君の人生を歩んで。
僕なんかを好きになってくれてありがとう。
本当にありがとう。』
僕は何度も読み返した。
そっか。気持ちは届いてたんだね。ずっと、ずっと君はただ鈍感なだけなんだと、期待したらダメだと思っていた。ましてや、君から好きと言ってくれるだなんて。
そうか、良かった。本当に良かった。
僕は少しでも君を幸せに出来たのだろうか。
きっとメールは送信予約していたのだろう。携帯を解約してしまったらそれも届かなくなるかもしれない、だから御両親に無理を言って頼んだのだろう。
分かったよ。君に会いに行ったりはしない。
ありがとう。
君の分まで生きていくよ。