彼からもらった指輪を着けた。
職場に向かうまでの間、左手はずっとこぶしを握っていて、何かを必死で耐えている。
爪を切っていてよかった。
自分の手を抉らずに済むから。
指輪をしてきて良かった。
丸めたこぶしの中に閉じこもった親指が、指輪に触れている間は安心できるから。
不満はなかった。
働く時間も人間関係も社会復帰リハビリ中の僕にはちょうどよかった。
問題もなかった。
仕事内容も通勤時間もうつ病治療中の僕にはぴったりだった。
それでも苦痛を伴った。
吐き気や頭痛、腹痛に襲われて。
それでも平静を装った。
勝手にそう振る舞う自分がいた。
何も嫌なことはないはずなのに
身体は拒否反応を示してしまう。
『ストレス性』から始まる諸々が
僕を少しずつ壊していく。
もしくは壊れている僕にそれを教えるためか。
