名前がないくせに、世に名高い猫がいる。彼曰く「吾輩は猫である。名前はまだない」。
かの先輩猫は、たまたま著名な作家が世に送り出してくれたおかげで、名前がないくせにやたらと有名になり、100年以上たった今でも人々に知られている。うらやましい限りである。
我もまた猫であり、そして名前がない。今後家に迎えてくれる人があって、名前を付けてくれたら、名無しの猫ではなく、何某となるのだろう。それまでは名無しである。
著名さにおいては、かの先輩猫には到底及ばないが、唯一我が勝っているのは、最初から生まれた家があることである。我は、他の眷属と同様、今はまだ名もなき職人により、世に出た。今は誰ぞ迎えてくれる人間をまっているところである。早く落ち着きたいものだ。
かの先輩猫は、床下で兄弟とにゃーにゃー泣いていた記憶があるそうである。兄弟があるのは賑やかで結構なことである。我には眷属は多いものの、一緒に生まれた兄弟はない。
眷属は、家にいるものもあるが、多くはすでに養子に行ったり、我と同様養子先を探していたりする。願わくば皆がよい人間に引き取られると良い。
我は声なき猫なので、生まれたばかりだからと言ってにゃーにゃー鳴くことはなかった。静かなものである。今後も鳴き声で人を煩わせることはない。眷属もそろって、無口なものばかりである。ゆえにお供する場所を選ばぬ。これは人にとって都合の良い事であろうと思う。
我はもともとずっと家にいるのではなく、誰かに買われることが前提で生まれたので、とにかく愛想よく、愛嬌がある猫になれ、としつけられた。
世の猫というのは、基本的に気ままな性分である。我も人に媚を売る気は当初はなかった。
しかし、あまりにも家のものがうるさいので、つい前足を上げてみたら、それが可愛い可愛いといわれ、ひっこめることができなくなってしまった。秘めた美点にしようと思っていた、黒豆のような肉球もさらしたままである。
しかし、人がそんなに肉球を喜ぶのなら、その笑顔のために、ずっと肉球を見せてやるも悪くはないと思い始めている。養子先が見つかったら、愛想もよくしてやろう。どのような人間に迎えられるのか、楽しみである。
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少々口は生意気かもしれませんが、とってもいい子です。ぜひ、あなたのお供に迎えてやってください。
この記事は、スタッフYがお届けしました。

