日程の都合上ハイペースで(6日間)デリーからカルカッタまで向かわなければならないため、すぐにアグラへ向かうことにした。アグラにはタージマハルやアグラ城などの世界遺産が多々ある。文化の街(ヒンドゥー教の聖地バラナシなど)というよりは遺跡の街のようだ。
タージマハルに入るまでとても面倒ではあったが、意外にも観光客のほとんどがインド人であり、外国人用の列はスカスカであったりするのでforeigner priceを出していても納得できる何かがある(インド人価格は激安であり値下げ後のトゥクトゥクの値段と大差ない)。持ち物検査は人一番厳しく、荷物を遠くまで預けて、今度はこれがダメだと言われまた預けに戻ってを繰り返さなければならない(あと大量のインド人に揉みくちゃにされるが、アジアの国々でスリのようなものに出会ったことはない)。
タージマハルは一時の王が激愛する妃のために22年かけて建てられた「お墓」である。世界で最も豪華な墓とも呼ばれるタージマハル、楽しみである。いざ見てみるとうーん思っていた程ではないというか、ただの建築物としか思えない代物だった。一応全て大理石でできているのだが、日本のテーブルなどで使われている大理石のようにツルツルではなくどこかザラザラとした、光沢のないタージマハルであった。だが、中に入ってみると話が変わってくる。上に広大でシンとした張り詰めた空間に、棺のようなものが2つ中央に並んでいる。何がすごいかと言われると、その神聖な空気雰囲気と説明するしかできないのだが、ただの1人の墓だと考えるとあまりに規模が大きく、荘厳であった。また、アグラ城というあまり聞いたことのない世界遺産にも足を運んだがこちらは大理石調ではなく赤土調であった。アグラの遺跡は大理石調と赤土調に分かれるかその融合型が多いようだ。ベトナムのフエとは異なり城壁はかなり入り組んでいる(フエは正方形に街を囲んでいた)。アグラ城壁は20mほどの高さがあり、進撃の巨人ほど壁は高くないが十分に迫力を感じられる。ただこのような遺跡巡りの旅は飽きやすい性分の僕が長いこと時間を潰すには向いておらず、時間を余したためダウンタウンを歩くことにした。近くにモスクがあり、このアグラという街でいかにイスラム教が普及していたかがわかる。インドの中にいるイスラム教とヒンドゥー教の2大巨頭を、イギリスが分割統治でパキスタンにイスラム教を、インドにヒンドゥー教を寄せたと思っていたのだが、インドの中にはイスラムの血がある程度存在するらしい。
いつしか自然とインドに対する嫌悪感、苦手意識は消えてしまった。やたら世話を焼かれチップを要求されることや(インドにチップ文化はないだろ?と笑いかけるとみな諦めるのである)あまりに執拗な勧誘など、そこには秩序は存在せず混沌で無法地帯ではあるものの、ある種の秩序には従おうとしているインドが愛おしく思えるのである。
バラナシへの寝台電車はとても平和なものに思えたが、若い女性2人組が手を叩きながら男客に声をかけているのには驚いた。電車の中で何をするつもりなのであろうか。独身かどうか訊ねられ、私も独身だと応えてき、周りはニヤニヤしており、女性自身はお札を持っている。身なりも綺麗にしており、正解はわからないが不思議な体験である。
列車の通路を挟んだところに6人がたむろしており、僕が何をするにしても見てくる。僕が本を読み始めると、その本を見せてくれ!と言い出し皮肉にも話が弾むこととなった。とは言っても英語を話すのは1人だけであり、その1人も話し始める前に自分のスマホで翻訳してから読み上げるという具合であった。夜ご飯は食べたのか、どこから来たのか、1人なのか、彼女はいるのか、インドの食べ物はもう食べたのかインドはどうか、日本でiPhone16はいくらなのか、などなど様々な質問が飛んでき、答えるとみなが笑ったり握手を求めてきたりのリアクションをするのだ。日本の紙幣を見せて欲しいと言われて、パンツから日本札を取り出す工程を全て見られた挙句その内の1枚を手渡した時は流石に警戒したが、電車内でご飯を持ってくるように言ってくれたり(節約のために1日1食で済ませている僕には大変ありがたかった)なかなか良くしてくれる若者達だった(遠慮せずブーブーおならをするのだけが難点)。ネパールでもインドの代理店でもここでもそうであったが、男同士の会話となると大抵盛り上がるのは女の子の話である。結婚しているのかをまず聞かれ、していないと答えると彼女はいるのかと聞かれ、色々あっていないのだ、と答えるととても驚かれるのである。そして相手のパートナーを見せられるまでがセットだ。国や地域によって女性のタイプも異なり、人によって好みも異なるためリアクションは日本にいる時より非常に難しいが、褒めて嫌がる男はいなかった。
英語を喋る筋肉質が寝る前にジェイスリラーム、と言ってきた。明らかに英語ではないので、なぜ僕にわざわざ英語以外の言語で話しかけるのだろうと不思議に思い調べてみるとヒンドゥー教の神ラーマを讃えて「ラーマに栄光あれ」「ラーマ万歳」という意味らしい。カトリックでいうMay god bless you.やMay god be with you.のようなものであろう。ここまでくれば流石に大丈夫ではあろうが、念のためにいつも通りカバン全てのファスナーに鍵と、足にバックを括り付けておく工程はサボらないことにした。6人組が電気を消すと車両全体も一気に暗くなった。つまり、バカ騒ぎしていたのはここら一帯だけだったということに消灯後気付いたのである。
次の目的地は言うまでもなく、ガンジス川を臨むヒンドゥー教の聖地バラナシである。ネパールのバグマティ川とは規模が異なるようだ。