メイラード反応とウルトラワインと勉強しないなら廊下で立ってなさい!と | 名物濃厚こってりソムリエのNO WINE NO LIFEブログ

メイラード反応とウルトラワインと勉強しないなら廊下で立ってなさい!と

先日このブログでもご紹介した
ウルトラワインテイスティングクラブdeMonaco
後日談とディプロマでは不要かもしれないワインの味わいに関する
重要な化学反応と一般すぎる愛好家たちの反応に対する考察を。

先のワイン会の後、ご参加いただいた皆様の反応を集計すると
ドンペリニョン55に対する衝撃が大きかったみたいです。
ご参加いただいた方々には正直申し訳ないのですが
一番理解するのが難しい味わいで
ドンペリニョンが何故シャンパーニュで最も知的なのかを証明する逸品でした。
素直に白状いたします。
確かにおいしいシャンパーニュなのですが
その意味を知るには様々な知識と経験が必要なものでした。
その美味しさを理解していただくためのあらゆるプロセスを
サービス後の数分でこなすという超スパルタな時間を過ごしていただいたのです。

会の時にもお話しましたが
ボルドー一級シャトーが人類の英知を超えたものによって作られるのに対し
このドンペリニョンというシャンパーニュはまさに人類の英知の結晶であり
フランスの2000年を超える高級ワイン製造の歴史の頂点に立つ逸品であるとも言えます。
ラフィットは自社ブドウ園の劣勢と考えられ、通常セカンドワインの生産しか行われない畑で
ラフィットの生産に挑戦しましたが失敗に終わったそうです。
ラトゥール、ラスカース、
共にセカンドワインとして長く劣勢とされる区画のワインを別に仕立てていました。

一方
シャンパーニュでは
最高のブドウを複雑なブレンドプロセスを経て商品化されます。
今は少し増えてますが
もともとシャンパーニュで単一畑名を名乗るのは
クロデュメニル、クロデゴワセ、クロデュムーラン
のたった3つしかなかったのです。
しかも
クロデュムーランは通常複数生産年のブレンドです。
その複雑な醸造プロセスも相まってシャンパーニュはテロワールを表現するものと言うより
人類の英知の結晶とでもいうべきものになりました。

シャンパーニュと言えば毎回書きますが
最終製品として出荷できる状態に近いものに
再度微生物の活動を許し、味の確認をされないまま出荷されます。
今回いただいたドンペリニョンは1955年物と言うことで微生物の管理に関しては
今よりはるかに研究が遅れているはずなんです。
さらに
高級ワインの熟成がテロワールによってのみ約束されるとしたならば
テロワールと無縁なこのワインに女神がほほ笑む余地はないと考えるべきでしょう。
だから
2012年57年の歳月を経て飲用に耐えるかどうかは実験的側面が強すぎました。
しかし
ふたを開けてみれば主催者側の心配は全くの杞憂に終わり
ドンペリニョン55は一番人気に終わりました。

味の秘密に迫ってみましょう。
日本酒は熟成を楽しむお酒ではありません。
反論もたくさんあるでしょうが一般に製造年月日から1年も過ぎると
大抵は見切り販売されます。
シャンパーニュに限らず瓶内二次発酵を経たスパークリングワインには
普通のワインには含まれることがない2つの成分が存在します。
アミノ酸と還元糖です。
瓶内二次発酵を行うと関係した酵母の死体がアミノ酸として自己分解し
アミノ酸としてワインに残存せざるを得なくなります。
通常ワインの世界では雑味成分として濾過成長されるのですが
瓶内二次発酵を経たこの手のお酒ではそれは叶いません。
さらに仕上げに若干の糖分が慣習的に添加されます。
このアミノ酸と残留糖分がメイラード反応と呼ばれる
複雑にして基本ともなる旨味生成プロセスを引き起こすのだそうです。

メイラード反応については
某Kで殴られるといたそうなあのNHKの番組、ためしてガッテンをこの間見ていると
キーワードとして頻出しているそうで正直びっくりしました。
実はジャンシスのオックスフォードコンパニオンにも出てこない話題なのです。
だから
かなり難しい話を今していると言えます。
ざっくり申しますと糖とアミノ酸から新しいうまみが生まれるということで
温度をあげると結構簡単にすすむそうです。
そうです。
何故肉を焼くと美味しいか?
この答えの1つとしてメイラード反応が起こったからと言えるようです。
音頭をあげることで反応の速度は早まるそうですが
常温でも反応はしっかり起こるそうです。
ただ高温時より時間がかかる分
あまり世間では認識されることが少ないそうですが
何十年に及ぶ熟成を期待される超高級シャンパーニュの世界ではいかがなっているのでしょう?
メイラード反応の副産物として
「焦げ臭、カラメル臭、ナッツ様の臭気、パン様の臭気、チョコレート臭、時にカビ臭やスミレ様の臭気など、様々な香気を生じる。」
とWIKIPEDIAに書いてありました。
熟成シャンパーニュの味わいを語る上で大切な言葉がここに結構並んでいます。
カビの香りと聞くと少しドキッとしますがチーズに通ずる香りと理解すれば
さもありなんと思ってしまします。

この香りは日本酒の世界ではしばしヒネ臭として敬遠されます。
そのため日本人の苦手とする香りとしてしばし理解され
事実、僕も長くシェリーや熟成白ワインは苦手な分野で
フレッシュ&フルーティーを最高としてきました。
しかし
最近の研究によるとヒネ香とメイラード反応に由来する熟成香は似て大きく異なることが解明されつつあるそうです。
とはいえ
以上のプロセスを理解してこの両者の差異を敏感に察知し区別することがワインのプロには要求されます。
でも
この一連の予備知識を理解してもやっぱり白とかシャンパーニュは若いのが好きという嗜好の持ち主がいらっしゃる一方で
全く知らないけど好きとおっしゃる嗜好の持ち主がいらっしゃいます。
あくまでし好品の世界です。
お互いの嗜好は尊重されるべきなのですが
お互いの至高とそれが意味するところを知っておいたほうがワインは楽しく飲めます。
そうです。
ワインは一人で飲んでも涙の味しかしません。
みんなで飲んでいる時がたのしいんです。
自分が美味しいと思ったワインを一人でも多くの人に共感してもらえたら
幸せですよね。

冒頭でも述べたとおりメイラード反応については
ディプロマの試験において必要な知識ではありませんが
知っておくといろいろと役にたつみたいです。
だから
家にあったシャンパーニュを廊下に立たせるというより
意味が理解できるまで
冷蔵庫で立ってなさい!
とうちの同居人にお説教してお手本になってくれるよう
期待したいと思います。