自動車評論家渡辺陽一郎の解説です。
http://autoc-one.jp/daihatsu/report-795083/
このボディでJC08モード燃費が30km/L、10・15モード燃費が32km/Lなの!?
イースのプロトタイプを見た時は驚いた。09年の東京モーターショーに参考出品された車両とは、かなり違う外観に仕上がっていたからだ。
ショーモデルは、ボディの短い3ドアハッチバック。「このくらい短くして軽量化を図らないと、30km/Lは難しいのだろう」と思った。
ところが市販版に近いプロトタイプは、全長が3395mmで全幅は1475mm。ほかの軽自動車と同じだ。全高はミラより30mm低い1500mmだが、エッセに比べると30mm背が高い。ホイールベースは2455mm。
プラットフォームは世代が新しくなったムーヴを基本とするから、同じ数値になる。つまりは普通の軽自動車。「燃費スペシャル」の雰囲気はない。
そうなれば居住性も満足できる。フロントシートは座り心地が良く、頭上の空間も不足していない。
リアシートは、全高を1500mmに抑えたから頭上は狭めだ。
しかし足元の空間は十分。前後に座る乗員のヒップポイント間隔は930mmで、ムーヴコンテの955mmに近い。アルトとの比較では100mm以上の余裕を持たせ、大人4名が快適に乗車できる。
座面の造り込みも申し分なく、床と座面の間隔も十分に確保した。着座姿勢は良好。内装も安っぽい印象は受けない。ムーヴのような背の高い軽自動車ではないが、ファミリーカーとしても使える居住性が備わる。
車内をチェックしていたら、冒頭で触れた燃費性能に対する疑問が、ますます深まってしまった。ここまで実用性を高めて、優れた燃費性能を達成できるのか?
そこで燃費を測りながら、特設の会場で試乗を開始した。
イースを発進させると、再び新たな発見。加速感が実に滑らかだ。CVTを使っていることもあるが、それだけではない。
燃費性能の向上を目的に、エンジン内部の摩擦損失を徹底的に低減させたから、回転感覚が洗練されている。ノイズも抑えられ、運転感覚は上質だ。
エンジンの性能は、最高出力が50馬力、最大トルクは6.1kg-m。ムーヴに対して最高出力は2馬力低く、最大トルクは同じ数値になる。
それでもボディ、サスペンション、シートまで車両全体の造りを見直して、車両重量は730kgと軽い。ムーヴを80kg、CVTとアイドリングストップを備えたミラを60kg下まわる。
ノーマルエンジンを積んだ軽自動車にしては、動力性能の余裕を感じるほどだ。
軽量化を徹底させると、一般的には乗り心地や走行安定性に皺寄せがくる。イースの場合はどうだろう。
タイヤは14インチで、転がり抵抗を抑えたヨコハマのブルーアースA34。乗り心地が若干硬めに感じる面もあるが、細かな路面のデコボコを吸収し、軽自動車としては快適に走れる。
走行安定性も同様。背の低いボディとあってコーナーでも左右に振られにくく、後輪の接地性が高いから安心できる。
機敏に曲がるタイプではないが、少し速度を高めても、旋回軌跡を拡大させにくい。街中を中心に使う軽自動車として、走行性能は十分に満足できる。
燃費計をチェックすると、エアコンを作動させ、発進加速のチェックなどを行いながら走っても、20km/L前後を示した。
試しにエアコンを使わずにエコドライブを行うと、何と33km/L前後まで伸びる。前述の走行性能や居住性を考えると、効率はきわめて高い。
燃費スペシャル的なクルマではないのに、抜群に優れた数値を記録した。
優秀な燃費性能を実現した技術として、軽量化のほかに、エンジンの効率向上も見逃せない。燃料を噴射する時の微粒子化により、圧縮比は従来の10.8から11.3に向上。排出ガスを燃焼室内に還元させるEGRの効果も高め、吸気時の抵抗を抑えた。
CVTもギヤ比を高めるなどの改善を施し、総合的に優れた燃費性能を実現させている。
アイドリングストップも重要な技術。約10%の燃費節約に貢献する。
制御として新しいのは、車速が時速7km以下になると、アイドリングストップの状態に入ること。これもさまざまなメリットを生み出す。
まずは燃料の節約効果が高い。アイドリングの停止時間を長くできるからだ。
ムーヴなどは、デリケートな減速を行うとアイドリングストップの状態に入らないことがあるが、停止する直前にエンジンを止めれば、この不具合も避けられる。
停止後の制御もムーヴとは少し違う。ブレーキペダルを緩めて再始動するのは同じだが、ムーヴの場合は停止中に踏み込んでも再始動してしまう。イースではこの不満も改善され、進化型のアイドリングストップになった。
気になるのは価格設定。税金の安い軽自動車では経済性が重要で、そこには価格も含まれるからだ。
9月に発売されるイースでは、アイドリングストップ/CVT/4輪ABSを備えたベーシックなグレードを80万円弱に設定するという。電動ミラーなどが省かれたとしても格安だ。
だとすれば、実用装備を充実させた買い得グレードは95万円前後だろう。CVTと4輪ABSを備えたミラと同程度の価格で、アイドリングストップ付きの抜群に燃費性能の優れた軽自動車が買える。
ちなみに10・15モード燃費が30km/L以上の車種としては、今のところデミオ13スカイアクティブの140万円が最廉価。イースは抜本的に安く、注目されることは確実だ。
しかも、リアシートの居住性や走行性能にも余裕があるから、軽自動車の売れ筋車種になる可能性も高い。
80年代以降の軽自動車は、コンパクトカーをライバル視して進化してきた。今ではその目的はほぼ達成され、背の高い車種は、居住性に優れた上質な室内空間を備える。
最近はコンパクトカーの質感が下降傾向にあるから、軽自動車の方が快適に感じられることも多い。
しかしそれは、軽自動車の本質を突いた商品とはいい難い。
コンパクトカーに負けない機能は身に付けたが、「軽自動車でなければ達成できないクルマ造り」ではない。実用燃費については、今ではコンパクトカーに負けている面もある。
その点、イースは軽自動車のサイズを生かして車両重量を730kgに抑え、80万円弱の低価格で、30km/LのJC08モード燃費と32km/Lの10・15モード燃費を提供できる。この「価格対燃費」のバランスは、軽自動車の独壇場だ。
そして最近の市場では、燃費性能、いい換えれば環境性能の優れたクルマが上質と受け取られるようになった。
となれば、イースの登場を受けて、軽自動車の価値観が大きく変わる可能性がある。
スバル360、アルト、ワゴンRに並ぶ、日本車の歴史に名を残す軽自動車の登場だ。

