医療費が100万円かかっても
最終的な自己負担は9万円程度
現在、医療機関の窓口では、年齢や所得に応じて医療費の一部を自己負担する。70歳未満の場合は3割だ。では、100万円かかったら30万円支払うのかというと、そんな心配はない。1カ月(歴月単位)に支払う自己負担額には、所得や年齢に応じた上限が設けられており、限度額を超えた分については還付を受けることができるようになっている。
所得区分は3段階に分かれており、たとえば一般的な所得の人(会社員は月収53万円未満、自営業は基礎控除後の総所得金額が600万円以下)の自己負担限度額は【8万100円+(医療費-26万7000円)×1%】。医療費が100万円かかった場合は8万7430円。いったん窓口では30万円支払うが、8万7430円を超えた分の21万2570円は、申請すれば払い戻される仕組みになっている。
治療が長引いた場合は、「多数該当」という配慮があり、医療費が限度額を超えた月が直近12カ月以内に3回以上になると、4回目からは限度額が4万4400円に引き下げられる(所得が一般の場合)。
この制度のおかげで医療費は際限なくかかるわけではないのだが、こうした保障があることを知らない人は多い。
中小企業の会社員などが加入する協会けんぽ(旧・政府管掌健康保険)では、2003年に高額療養費を利用できるケースが179万件あったにもかかわらず、還付を受けた人は110万件。69万件は還付申請がされないままだったという。
前出の調査でも、疾病入院給付金が支払われる生命保険に加入している人は71.3%もいるのに、高額療養費の還付について知っている人は43.8%で半数に満たないという残念な結果となっている。
健康保険は民間の保険のようにコストをかけて大々的に宣伝することがない。原則的に申請主義で、保障内容について説明を受ける機会もほとんどないため、お金が戻ることを知らずに損をしている人も多いようだ。
こうした事態を解消するために、協会けんぽでは2006年4月から高額療養費の対象になる人には還付申請のお知らせを通知するようになった。大手企業の社員などが加入する健康保険組合、公務員が加入する共済組合は自動的に還付を受けられる。自営業者などが加入する国民健康保険は、自治体ごとに対応が異なるので、高額療養費の対象になりそうな人は問い合わせてみるといい。
還付申請の時効は2年だ。医療費がたくさんかかったのに高額療養費の申請をしていないという人は早めに手続きをしよう。
最終的に自己負担する医療費には上限があるので、この制度を知っていれば必要以上に医療費に対する不安はなくなるはずだ。しかし、高額療養費の還付金が実際に手元に戻るのは申請の3カ月ほどあとになる。
これは国で定められている医療費請求の仕組みによるものだが、いずれ払い戻されるとはいえ、一時的にでも高額な医療費を負担するのが厳しい人もいる。こうした人には、高額療養費の支給見込額の8~9割を無利子で借りられる貸付制度もあるので、資金繰りに困ったときは加入している健康保険の窓口に相談してみよう。
また、入院時の医療費は医療機関の窓口で「限度額適用認定証」を提示すれば、3割すべてを支払う必要はなく、最初から定められた限度額の支払いだけで済むようになった。還付申請の手間も省けるので、入院することが分かっている場合は事前に限度額適用認定証を入手しておくといいだろう。限度額適用認定証は、加入している健康保険の窓口で発行してもらえる。
今のところ限度額適用認定証が利用できるのは入院のみだ。通院で医療費が高額になった場合や多数該当にあたる人は、還付申告が必要なので注意したい。
病気やケガで入院したときにかかる費用は、実際に経験してみなければ分からないものだ。それゆえに不安を膨らませてしまいがちだが、高額療養費をはじめとした健康保険の保障内容を知っておけば、闇雲に怯えることはないだろう。
せっかく健康保険料を納めているのだから、自分が加入している健康保険にはどのような保障があるのか確認し、そのメリットを最大限に享受しよう。会社員なら勤務先でもらった福利厚生ハンドブック、自営業なら市区町村のホームページなどを見てみよう。大手企業の健保組合の中には、差額ベッド代の補助が受けられたり、独自の保障を上乗せするなど、手厚い保障を用意しているところもある。
そうした保障内容を知れば、「健康保険があてにならない」などという馬鹿な考えは持たなくなるはずだ。
次回は、長期療養が必要な患者を支える健康保険制度を紹介する。