経済発展著しい中国において、“日本の味”であるラーメンが人気を博している。なかでも人気を牽引しているのが、中国で450店舗を展開し、2010年に中国料理協会が発表した中国ファーストフード企業トップ50のなかで第4位に選ばれた「味千ラーメン」だ。今や、中国で最大の店舗数を展開している日本の外食チェーンである。
「味千ラーメン…?」と首をかしげる方もいらっしゃるかもしれない。それもそのはず。同社は中国でこそマクドナルドやケンタッキーと肩を並べるファーストフードチェーンであり、約1万人もの社員を抱えている。それに対して、日本の社員はわずか 80名ほど。店舗も全国各地にあるとはいえ、その多くは熊本県を中心とした九州地区に集中しているため、日本人でも馴染みの薄い人が少なくないからだ。
では、熊本県の小さなラーメン屋だった味千ラーメンが、なぜ中国で大きな成功を収めることができたのだろうか。味千ラーメンを運営する重光産業の重光克昭社長に“成功のかくし味”を教えてもらった。
現在、中国では451店舗、世界で602店舗(2010年10月現在)を誇る味千ラーメンだが、そもそも中国へ進出することになったきっかけとは。
実は最初から「中国進出しよう」とか、海外戦略を強化しようと思っていたわけではないんですよ。日本経済の未来は暗いし、市場が飽和しているから、海外に活路を……という考えはありませんでした。
日本をメインの市場に据えていたところに、たまたま海外から出店のオファーが来て、色々な方との出会いをきっかけに、香港の出店につながりました。それがうまくいったことによって、徐々に「経済発展しつつある中国本土へも出店しよう」という考え方になってきただけです。
国内をメインにしながら、海外からのオファーに対応するというスタンスだったから、よかったのかもしれません。「国内がダメだから中国に活路を!」という考え方をしていたら、契約の内容や運営の方法も、今とは違っていたかもしれませんから。
――今は中国で大成功を収められているが、それまでにはどのような失敗や挫折があったのか。
実は、1994年に最初に出店した台湾の店は失敗してしまいました。フランチャイズ契約をした台湾の現地オーナーに対して品質や食材へのこだわりを伝えきれず、考え方を共有できなかった。そのために、我々が味の管理を十分にできず、失敗を招いてしまったのです。うちの商品を簡単にアレンジしないで、オリジナルのものを尊重していくことをきちっとやってくれる人たちじゃないと、うまくはいきません。
しかし幸いなことに、その後新たなパートナー2人と出会うことができました。1人は、実際に「香港でラーメン店をやりたい」と我々に問い合わせをしてきたリッキーという人物。もう1人は、熊本と香港の経済交流のなかで、うちの食品の製造に興味を持って視察に訪れたデイシーです。そして、無事1996年に香港店をオープン。成功へとつながっていきました。
なぜ香港への出店は、うまくいったのか。それは、日本のオリジナリティを尊重してくれたことです。「日本の味のまま香港で出したい」というオーナーの強い思いがあったので、「自分たちのやっている味千がそのまま出せるんだ」という信頼関係が生まれていました。
また、香港1号店を出すときには、出店場所に気を遣いました。香港の最も目立つ場所に出店できたことによって、大きな広告宣伝効果が得られたし、お客さんが並ぶことで話題性もありました。
多くの企業にとって、中国進出で最も大きな壁となるのがパートナー選びだろう。良いパートナーと巡り会うには、どうすればよいのだろうか。
相手の会社の規模などは関係なく、「本当にやりたいかどうか」という気持ちを見ること。リッキーはその当時27歳と若かったのですが、非常に熱心でした。金儲けのことだけでなく、とんこつラーメンを売りたいという強い思いを感じたので、我々もそこを信じたのです。
また、実際に海外から出店の問い合わせを受けると、「日本に来い」と言って呼び寄せ、必ず意気込みを確認しています。そして、基本的にオーナー研修を1ヵ月間、本店で行なっています。研修期間中は、夜一緒に食事をする機会もできるし、色々な話もできるので、信頼できるかどうかを見極めることができますから。
なぜ味千ラーメンが
中国人に受け入れられたのか
――本場である中国人に日本のラーメンが受け入れられることは、非常に難しいようにも思える。なぜ、味千ラーメンはここまで受け入れられたのだろうか。
味千ラーメンの先代は、台湾人なんです。日本に来て九州に住み着いて、とんこつラーメンを食べるようになった。そこで、台湾にいたときに好きだった味をとんこつラーメンにプラスしてできたのが、味千ラーメンです。言うなれば、日本と中華系の人たちの好きな味がうまく融合したために、中国人の舌にも合ったのではないでしょうか。
また、基本的なラーメンの味は大事にしているため変えていませんが、メニュー構成を日本とは変えています。つまり、現地の人たちが好むものにするために、メニューの幅を広げていくことで克服しているのです。
ラーメンに関しては、現地の人でないと思いつかないようなトッピングをしたりしていますね。代表的なのが、大きな海老を乗せたラーメンです。これは最初から香港などでも人気です。
日本だったら、皮のついた海老を乗せると食べにくい上に、面倒くさいですよね。でも、香港の人たちが好きな味付けにした海老を乗せたところ、非常に好評でした。こういうこともあるので、アイディアは現地のオーナーに任せ、味についてはお互いにチェックしながらメニュー開発をしています。
また、サイドメニューなどおかずのメニューも充実させていますよ。中国の人たちは、テーブルに料理がいっぱい並ぶスタイルで食事をします。我々がごはんとおかずを食べるように、主食であるラーメンにおかずをプラスして食べるというスタイルを、つくれるようにしています。
上場によって得られた
出店戦略と人材獲得の利
――96年の香港1号店のオープンから14年。さらなる飛躍のきっかけとなったのが、2007年に味千中国ホールディングスが上場したことだろう。上場によって、どのようなメリットが得られたか。
店舗数はなだらかに増えていましたが、07年の上場をきっかけにぐっと増えました。07年には年間100店舗、翌年には120店舗以上をオープンしましたから。
その理由は、上場によって信用度が増したことでしょう。物件の取得がしやすくなりました。現在は、発展地域だけでなく、徐々に郊外や内陸にも出店を進めています。中心部に出稼ぎに来ている人たちが地元に帰っても、味千ラーメンを食べられるようになりました。
また、社員のレベルもかなり上がりましたね。いろんな大手外食チェーンの幹部も入社してきてくれましたから。
そもそも、人材に関しては課題がありました。中国人は、1000人ほど入社しても600人くらい簡単に辞めてしまうんですよ。それはある程度仕方ないという感じです。全員がそうというわけではありませんが、待遇面で不満があると辞めたり、ストライキを起こす社員もいました。
上場によって、急拡大するのはいいですが、人材の確保が追いついていかないことが一番心配でした。上海で1号店を出したときに、「すぐに2号店を出したい」と言われましたが、人材がまだ揃っていなかったので、「人材教育をしてから出店しよう」という話を私からしましたね。ですから、最近では魅力ある人事制度をつくるように努力しています。
“核となるノウハウ”だけは
絶対に教えてはいけない
――フランチャイズを行なう企業であれば、通常収入の核となるのが、ロイヤリティだ。しかし、味千ラーメンは日本では月額1万5000円、中国はそれより高いとはいえ、3500元(5万円程度)に設定している。なぜロイヤリティをこれほど安く設定しているのか。
現在、味千ラーメンの本部である重光産業は、中国の味千ラーメンを運営する中国味千ホールディングスとフランチャイズ契約を結んでおり、食材の供給、中国味千の店舗展開のバックアップ、支援を行なう関係にあります。そして、味の指導や品質管理、商品提案などを行なっています。そうしたなかで、主に食材の販売とロイヤリティなどによって収入を得ている状況です。
ロイヤリティに関しては、売上に対する歩合で決めると管理も大変ですので、固定にしています。多くのお金をいただかないのは、「先代である創業社長のお店で頑張っているオーナーにお金が残るようにしないといけない」という思いがあるからです。我々はメーカーとして食材の販売ができるわけですから、あとはお店で働いている人たちが幸せになれるように、と。
それに、我々が何でも吸い取ってしまうと仲も悪くなるだろうし、高かったら彼らは払いたくなくなるでしょ? そうすると、店舗を守る努力をせずに、「いかにごまかしてロイヤリティを少なく済ませようか」ということに腐心する可能性もあります。そんなことに力を注いでもらうのではなく、店をどんどん出したり、発展させることに力を注いでくれたほうが、数も増えて我々にメリットがあるのです。
――中国に進出する日本企業へのアドバイスをするとすれば、どのようなことに一番気をつけるべきだろうか。
大事なのは、100%ノウハウを開示するのではなくて、核や決め手となるところを日本側として1つはとっておかなければならないということ。つまり、「これだけは教えられない」という部分を持たないと、ノウハウを全部とられてしまったり、真似されてしまう恐れがあります。もっともこれは、全ての中国人に当てはまるわけではありませんが。
我々の場合は、「味の決め手」になる部分がそれに当たります。実際、セントラルキッチンや麺は現地法人に任せていますが、スープの工場に関しては我々が所有しています。つまり、スープの味の決め手になるものは、我々が握っているのです。ただしその一方で、味の決め手以外は全部オープンにして、自由な発想や発展の可能性に委ねています。
また、いったん進出を決めたら熟慮するのではなく、スピード感が必要でしょう。相手を信頼できないといった素振りを見せるよりも、「信用しているから一緒にやっていこう」という姿勢でどんどん決めていったほうがいいかもしれません。
もちろん、それまでに何度か会って相手を見極めなければいけませんが、見極めたあとはスピード感を持って進めることが大切でしょうね。
主軸は日本に置きつつ、
夢の1000店舗とシャンゼリゼ店オープンへ
――最後に、これからの味千ラーメンの展望とは。
これからも、あくまで日本に主軸を置き、「待ち」の構えで積極的には海外進出を進めないというスタンスを、変えるつもりはありません。しかし、オファーがあれば積極的に協力とバックアップをしていきます。海外進出は、焦れば焦るほど失敗する恐れがありますから。
当面の目標は、先代が当初の目標としていた1000店舗の達成です。そして、先代の夢だったフランス・シャンゼリゼへも必ず出店したいですね。