天海　(175)

　岐阜城に入った秀信は大垣城と犬山城に直ちに救援を求めたのであった。

　「徳川勢は岐阜城下に入り、すぐに包囲戦に入るであろう。そこに大垣城から後詰が入れば、東西挟撃となり、我らにも勝機がある。」と秀信は主張する。

　すると木造長政は、「今般の戦況を思うに、米田の敗戦は偏に兵力差が原因であり、兵力を分散しては勝ち目がない。籠城するにせよ、全軍を岐阜城に集結して大垣からの援軍を待つべきである。」と主張した。

　しかし、秀信は「瑞龍寺山砦と権現山砦はともに大手口である七曲道を守るための砦であり、これを放棄しては七曲道を守ることはできない。」として、これを退けたのであった。

　瑞龍寺山砦攻略を任された5千人の浅野幸長は、瓜生口から浅野氏重、瑞龍寺東から浅野忠吉が砦の攻略を開始した。砦を守る柏原彦右衛門は善戦したものの、最後は数で勝る幸長と一柳直盛の軍に敗れた。

　松田重太夫が守る権現山砦も井伊直政と本多忠勝により攻略され、七曲道を守る二つの砦は陥落したのである。

　これにより福島軍は、後顧の憂いなく岐阜城を攻めることができた。福島・細川・加藤の諸隊は、岐阜城の総構を破ると七曲道を進んだ。福島軍は織田軍の抵抗を排除しながら七曲道を上っていったのである。山頂付近まで来ると木造長政が守る武藤砦が行く手を阻んだ。

　長政は弓・鉄砲で福島軍を圧倒し、怯んだところを長槍隊が殺到、一町余りも退却させたのであった。砦側の反撃は厳しく、攻め手の正則も舌を巻いたという。しかし、ついに砦方の矢玉も切れて、白兵戦になると兵力差は如何ともしがたく、長政は太鼓櫓まで退いたのである。

　京極高知は百曲道を駆け上がり、織田秀則を破った。京極隊は太鼓櫓で福島軍と合流したのである。太鼓櫓を守っていたのは斎藤道三の孫である斎藤義興であった。義興もよく防戦したが押し寄せる大軍の前に櫓を守り切れず、敗死したのである。

　長政は二ノ門まで退却し、福島軍を待ち構えた。長政は激しい銃撃で福島軍を迎え撃ったのである。しかし福島軍も負けじと激しく撃ち返した。

　銃撃戦の中、福島軍の細川隊は二ノ門に取りついたが、焙烙玉を浴びて、大きな犠牲が出た。それでも織田方の被害も大きく、細川隊はついに二ノ門を突破したのであった。この戦いで長政は銃弾を受け負傷した。

　さて、搦め手である水手道を進んだ池田軍は、険しい山道ではあるものの、然したる妨害も受けず、難なく山頂に辿り着いた。こうして織田軍は本丸を包囲され、落城を確信した秀信は自害しようとした。しかし、長政や百々綱家に諫められ、ついに降伏したのである。

　さて、織田秀信について、皆さんはどのように思われたであろうか。多くの人は大軍を前に兵力を分散し、岐阜城を一日で陥落させた愚将であるという。だが、私は3万5千の大軍を相手によく戦ったと思うのだ。兵力の分散にしても、仮に岐阜城に戦力を集めても結果は同じであったろう。

　むしろ責められるべきは大垣城の三成である。三成は秀信を味方に誘っておきながら、岐阜城で奮戦する秀信を見殺しにしたのである。

　実は大垣城は援軍として舞兵庫の部隊（1千人）を派遣していたという。しかし合渡川で黒田長政（5千400人）や藤堂高虎（2千500人）、田中吉政（3千人）に簡単に撃退されていたのだ。それどころか高虎らは合渡川を渡ると大垣城近くの赤坂に陣を布いたのである。

　三成は全軍をもって岐阜に駆け付けるべきであったのだ。彼らの運命は、関ケ原ではなく、ここ岐阜城で潰えたのである。

織田秀信

天海 (175)

天海　(175)