明智秀満　(75)

「信長公記」

　『御国割りの事

　三月廿九日、御知行割り、仰せ出ださるる次第。

覚

　甲斐国、河尻與兵衛へ下さる。但し、穴山本知分これを除く。

　駿河国、家康卿へ、

　上野国、滝川左近へ下さる。

　信濃国、タカイ、ミノチ、サラシナ、ハジナ四郡、林勝蔵へ下さる。

　川中島表在城、今度、励先陣粉骨につきて、御褒美として仰せ付けられ、面目の至りなり。

　同、キソ谷二郡木曾本知。

　同、アツミ、ツカマ二郡木曾新知に下され、

　同、伊奈一郡毛利河内へ下さる。

　同、諏訪一郡河尻。穴山替地に下さる。

　同、小さ県・佐久二郡滝川左近へ下さる。

　以上、十二郡。

　岩村、団平八、今度粉骨につきて下さる。

　金山よだな島、森乱へ下さる。これは勝蔵、忝き次第なり。』

　３月29日、織田政権から新たな国割が発表された。

　家康から甲斐一国を譲られる約束であった穴山梅雪は甲斐国河内郡、駿河国江尻郡の本地安堵となった。身分は織田家の国衆で、家康の与力大名である。ただ嫡男・勝千代は無事、武田家の名跡を継いだようで、武田信治の名が伝わっている。

　甲斐国は河尻秀隆の領地となり、穴山氏の代替地として信濃国諏訪郡を与えられた。木曽義昌は本地の木曽谷から深志（松本）までを与えられ、後の筑摩郡のほぼ全域を領有した。森長可は川中島4郡を与えられ、伊那郡は毛利頼秀の所領となった。滝川一益には上野国と信濃国佐久郡・小県郡という広大な所領を与えられた。

　長可と先陣を争った団忠正は河尻が領有していた美濃国岩村城が与えられ、長可が領していた兼山城は弟の森乱が継承した。

　信長は国割の他に「国掟　甲信」を定めている。

　① 関銭等をとってはならない。

　② 百姓に本年具以外の不当な課役を貸してはならない。

　③ 忠節な人を立て、屁理屈を言って怠ける侍は殺害・追放せよ。

　④ 公事は念入りにせよ。

　⑤ 国侍は丁重に、油断なく扱え。

　⑥ 我欲のままに統治せず、多くの者に知行を与え人数を抱えること。

　⑦ 奉公を望む者は履歴を確認し、前主人に届出せよ。

　⑧ 諸城は堅固に普請せよ。

　⑨ 鉄砲、玉薬、兵糧を蓄積すべきこと。

　⑩ 郡内で分担し道を作ること。

　⑪ 所領争いが起きても私怨を持たざること。

　以上、その他、悪い事態が起きたら直接直訴せよ。

　秀満は「奉公を望む者の前主人に届出せよか、上様もよほど一鉄が煙たかったようだな。」と笑った。利三の件は大事にはならないようだが、その間に土佐の状況は悪化している。

　元親は交渉相手を見失い、間に入った石谷頼辰も困っているだろう。信孝は四国征伐の準備で東奔西走していて、「早く落としどころを見つけないと、本当に戦になってしまう。」と懸念した。

明智秀満 (75)

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