明智秀満　(74)

「信長公記」

　『三位中将信忠卿、今度、高遠の名城攻め落し、御手柄御褒美として、梨地蒔御腰物参られ侯。天下の儀も御与奪なさるべき旨、仰せらる。東国御隙入る儀も御座無きに付きて、右の御礼として、三月廿八日、三位中将信忠卿、甲府より諏訪まで御馬を納めらる。今日、以外に時雨、風ありて、寒じたる事、大形ならず。人余多寒死侯ひき。信長公は、諏訪より富土の根かたを御見物なされ、駿河、遠江へ御回り候て、御帰洛なすべきの間、諸卒是れより帰し申し、頭々ばかり御伴仕り侯へ、と仰せ出だされ、御人数、諏訪より御暇下さる。三月廿九日、木曽口、伊奈口、思い思いに帰陣侯なり。』

　甲信の知行割を概ね定めると、この度の評定は終わった。光秀が帰陣しようとすると、奉行の堀秀政に呼び止められた。

　「三位法印様から申し出がありました。那波和泉が帰参すれば、この訴訟は取り下げるとのことです。これにより大きな処分はないと存じますが、上様は全てを不問にはできない、と申しております。内蔵助の坂本城での蟄居は解除するが、当面、安土への出仕は停止するそうです。最終的には謹慎を命ずる、というような内容になるでしょう。」と言った。光秀は謝辞を述べると、今後の対応もお願いした。

　3月24日、信長は諸将の在陣が長くなったことを受け、菅谷長頼を奉行として深志において扶持米を給付することにした。

　3月25日には、上野国の小幡信貞が甲府にやって来て、信忠に帰服のお礼をした。一益はそのまま信貞を連れて、上野に入ったのである。

　なお、この後、一益には真田昌幸も与力として付けられている。他の国衆が殺害されているのに、大名格の昌幸がしぶとく生き残っているのは、ある意味不思議である。恐らく昌幸は、①直接、織田勢と争っていない。②この時既に馬を献上し織田家に恭順を示している。③北条、上杉とも接触していて北条方から降伏を勧められている。④旧主に対して不忠、卑劣な行為がない。⑤岩櫃城に籠っていて、これを落城させるには多大な犠牲を伴う、等の理由から一益の配下として存続を許されたのであろう。

　昌幸の所領は分かっていないが、吾妻郡以外の上野国所領は全て失った模様である。それでも小県郡・吾妻郡等の領有は安堵されたようで、4月８日には、次男・信繫を一益に人質として出し、織田政権に組み込まれている。

　3月28日、信長は信忠に褒美を取らせると、「天下も譲る。」と言い出した。驚いた信忠は甲府から諏訪まで駆けだしたのであるが、折しも暴風に曝され、従者の中には凍死するものまであった。

信長は「これから富士を見ながら駿河、遠江を回ってゆっくり帰ろう。」と言い出した。「ついては将のみ残して、兵卒は帰国させろ。」と命じたのである。

　3月29日、木曽口、伊那口を通り将兵は各々帰国したのであった。

堀秀政

明智秀満 (74)

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