明智秀満　⑱

「福知山市史」

　『光秀の支配は当然信長の方針に沿うたものであり、その信長も戦国末期、それぞれの地域に政権をうちたてていた群雄と同一の路線を一そう徹底させ、さらに広範囲に広げたものである。つまり楽市・楽座によって城下町の繁栄をもたらし、各地で通行税を徴していた関所を廃し、橋をかけ道路をよくする一方、重層的支配を単純化して耕作権を保証し、城の防衛と領国の発展に必要な人と富とを城下へ集めた。このことは当然物資の流通を盛んにし、一般商人の営利活動を促すものであった。』

　日本の中世を読み解くためには、土地の所有制度、「荘園」について知らなくてはならない。本来の律令制は公地公民であり、荘園はその例外として存在した。新たに開墾した者に土地の所有を認めたもので、「荘」は建物を、「園」は農園を意味していた。開発領主による小規模な荘園は次第に縮小し、平安後期から「不輸不入権」を伴う「領域型荘園」が広がっていく。いつしか全国の土地の半分以上が荘園となったのである。貴族、大寺院に荘園を寄贈した開発領主の多くは「荘官」になり、実質的に荘園を管理したのであった。また国衙領も知行国主の私領化していった。

　鎌倉時代に入ると「地頭」が荘園内の徴税権を握るようになり、荘園支配を強めていく。当然、荘園領主との対立が激しくなり、各地で土地を巡る訴訟、抗争が多くなっていった。結果として一つの土地に多くの所有者、権利者が複雑に絡み合い、権益をめぐる武力衝突も多くなった。

　その一方で農民は惣村を形成し、各地で自立し始めていた。人工的に境界を定めた荘園に対して、生活圏に依存した惣村は自律性が強く、一揆や逃散で不当な荘官や地頭を排除することもあった。

　「威光寺文書」によると丹波国は地頭が領地を兄弟で分割相続したため、それぞれが小身の地頭ばかりができてしまい、軍役もままならなかったという。それで金に困った小領主は高値で領地を次々と名主に売り払ったという。このため一つの村に5人も6人も名主が生まれ、武士に取り立てられるものも多かった。

　光秀が「丹波は地頭が多く、悪政がはびこっていた。」というのはこのことである。それでなくても畿内は貴族・大寺社の力が強く、荘園制の影響が大きく残っていた。信長が、比叡山、高野山、本願寺等と戦ったのは、中世の世を終わらせ、近世を開く上で必然であり、時代の要請でもあったのだ。

　光秀は旧体制の地頭や領主を一掃した。関所を廃止し、楽市・楽座を広げ、城下町を整備した。治水を行い、橋をかけ、道路を整備して、物資の流通を盛んにした。重層化していた土地を農民と領主に単純化し、惣村の自治を認め惣村請けを一般化した。

　丹波の人々が新しい時代の領主である光秀たちを歓迎したのは、ある意味当然なのである。

明智藪

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