目が覚めて自分の部屋ではない事に慌てた。
そして昨日そのままユノの家に泊まることになったのを思い出して、ゆっくりと周りを見渡してみる。
リビングのソファーのサイズはチャンミンが横になるにも苦がない大きさだ。
DVD鑑賞後、案の定というべきかユノは一人になるのを怖がった。
チャンミンに泊って行けと必死に訴えて、ベッドを使えとも提案された。
「じゃあヒョンはどこで寝るんですか」と尋ねると座っていたソファーをポンポンと叩いて。
「俺はいつもここで寝てるから平気」と言ってのけた。
…ベッドの使用用途は何なんだ。
そんな言い合いを暫くはしたものの、結局チャンミンもソファーを使うことにした。
多分、一人より心強いはずだ。
ただし、夜中にトイレで起こされるのだけは勘弁してほしいものだと眠りに就いたが、それは流石に杞憂だったようだ。
そう言えばユノの姿は見えない。
くしゃくしゃのブランケットと大きなテディベアが置き去りにされている。
シャワーかトイレにでも行ったのかと上体を起こしたチャンミンが大きなあくびをして伸びをすると玄関から慌ただしい音が聞こえてくる。
パタパタと足音が聞こえて、リビングのドアが勢いよく開けられた。
「おはよ、チャンミン」
「おはようございます。…どこか行ってたんですか?」
ユノが手にしていた有名なコーヒーのチェーン店のロゴが入った紙袋を掲げて見せる。
「朝飯。俺自炊苦手だから…こんなでごめんなー」
「いえ、ありがとうございます」
「何が好きか解らないからとりあえず色々買って来たけど…チャンミンめっちゃ食べるイメージあるし大丈夫かな」
袋の中からサンドイッチやキッシュ、アイスコーヒーを出してテーブルに並べていく。
「顔洗っておいで?」
そう言ってバスルームの方を手で示す。
そう言えば昨晩「使い捨ての歯ブラシあるから」と言われて自分のバッグを手繰り寄せ、携帯用のケアセットを取り出して見せるとその様子にユノはさすがアイドルと笑っていたっけ。
身支度を整えてリビングに戻ると頬杖をついてご機嫌に鼻歌を披露しているユノがチャンミンの姿を見付けて「どれにするー♪」と謎のメロディーラインをつけて聞かれた。
「ヒョンが好きなの食べてくださいよ」
「俺、自分が食べてみたいのばっかり選んできたから問題ない」
「じゃあ遠慮なく」
チャンミンが座った前にあったハムとチーズが挟んであるサンドイッチを手に取ると、ユノも同じように一番近くにあったラップサンドのフィルムを剥がして齧しつく。
「チャンミン今日オフだろ」
「オフです。ヒョンは撮影でしたっけ?」
もぐもぐと擬音が聴こえそうに頬を膨らませて食べたものを咀嚼しながら、ユノがコーヒーのストローを銜えると首を横に振る。
「俺もオフ。ジムいくくらいかな」
「さすが」
「チャンミンこそ体鍛えてるだろー?」
「まぁ、僕の場合それも仕事なんで」
「めっちゃ食べるのにアレは羨ましい」
「…ユノヒョンなんでそんなこと知ってるんですか」
よく考えてみたらドラマの撮影の時も着替えるのが一緒だったりもしないし、自分が食べることが好きでよく食べることもある程度知られているとはいえ、なぜ彼がこんなに詳しいのか。
ユノは四つ這いでテレビボードまで行くと扉を開けて出した箱をこちらに見せる。
しかも何故かドヤ顔で。
それはチャンミンのライブDVDだった。
初めて会った時にファンだとは言ってくれたが社交辞令的なものかと思っていたのに丁寧に仕舞われていても何度も出してくれたのだろうと思えるほどに外装のフィルムには痛みがある。
「アンコール脱いでるだろ。あとドキュメンタリーの楽屋でめっちゃ美味しそうにケータリング食ってるし。あれすげぇ好き。見てて気持ちいい」
「あー…えっと…ありがとうございます…?」
あははーとなんだか独特な笑い方をしてユノが戻ってくると、残っていたラップサンドを口に入れた。
「このツアーのセトリが俺的に神!」
本当に嬉しそうにそう言われて、照れくさくなった。
どの曲が好きなのか、自分のどこを気に入ってくれているのか聞いてみたいような聞きたくないようななんともむず痒いこの感じをなんと表現すればいいのか分からないけど、決して悪い気分ではない。
「ありがとうございます」
その後に続く言葉も出てこなくて、とりあえずサーモンのミラノサンドに齧り付くとユノが小さく笑う。
「照れるなよ」
「照れてねぇっすよ」
「そっか。それ半分ちょーだい」
「えぇぇぇ?」
「チャンミン食ってるの美味そうに見えるんだよ」
そう言われて、半分に割った片方を差し出すとなるほどイケメン俳優な笑顔でそれを受け取ったユノががぶりとそれに齧りついた。
「このドレッシング美味い」
「確かに重くないですよね」
頬を膨らませているユノを見ていて、どこかで見たことがあると思っていたチャンミンはそれが何かを思い出して一人で納得した。
「リスだ」
「…は?」
「なんでもないです」
小さい口で頬を膨らませて食べる様子。
しかも両手てしっかりミラノサンドを持っているから余計だ。
どうやら顔がにやけていたようでユノが困ったように眉根を寄せる。
「チャンミンいやらしい笑い方してるぞ」
「なんですか、それ。失礼な」
今度はチャンミンが眉を顰める番だった。
「…なんだよ。それで二人でモーニングコーヒーか」
「言い方」
「間違ってないだろ」
ジムに向かうユノに送ってもらってマンションに着くとキュヒョンから近くのカフェに居ると連絡をうけた。
キュヒョンも今日は休みで新しいゲームのソフトを持参で遊びに来る予定にはなっていたのだ。
コントローラーを握りながらも昨夜からの話をするとキュヒョンは面白そうにそう言った。
「そっちこそ例の『彼氏』とはどうなったんだよ」
「あー…ねぇ」
「なんだそりゃ」
「…あれが普通だったら、そりゃあ俺振られまくるはずだわー。なんかもう甲斐甲斐しいというか、痒いところに手が届くというか…腹立たしい」
台詞とは裏腹に少しばかり楽しそうな表情をしていて、キュヒョンもそれなりに面白い生活をしているようだ。
「っていうか、チャンミンのエピソードとかも十分シナリオ作れそうだよな」
「今から書くやつに?」
「うん。だって相手が可愛いって思えるって十分な要素でしょ?」
「そう…なのか?」
「そうじゃない?」
それは確かにキュヒョンがぬいぐるみを持ってきても可愛いと感じはしないだろうと思ったけれど。
だからといって。
「お前仕事頑張りすぎて思考回路がそっちになってるの?」
「仕事は頑張ってるよ。回りの無茶振りにめげず。でも俺の思考は正常です。…多分?」
多少不安な答えを聞いてチャンミンは肩を竦めるとキュヒョンが例の「彼氏」から貰ったという最近評判の店のフロランタンに手を伸ばした。