テーブルに突っ伏したチャンミンが「ありえねぇ…」と呟くと、合わせ鏡のように同じ格好でテーブルに突っ伏した向かいのキュヒョンも「ありえねぇよな」と呟く。
どうやらユノの事を恋愛感情に近い好きだと気づいてしまったその後、いっそキュヒョンに話して爆笑されて「勘違いじゃないのか?」とでも言われたら、そうだろうなと思えたかもしれないのに。
その親友も疑似彼氏に同様の感情を抱いているらしい。
結局二人でこうして感情を持て余しているのだ。
「俺の理想はさぁ。スレンダーで巨乳の美女なんだよ」
「そうだな。俺もだよ」
「美人だけど。スレンダーっちゃあそうなんだけど。男だ。あれは男だ」
「…美人ならまだいいじゃん…」
勢いよく顔を上げて手元のグラスの中のビールを一気に飲み干したキュヒョンが吠えた。
「男前だけど美人とは違うんだぞ!? 理想と現実は違うって言うけど予想外も甚だしいんだよ!!」
確かに見せてもらった写真はどこかのモデルですか?と聞きたくなる男前っぷりだった。
「最初はなんかもう、めちゃくちゃ男前で紳士で腹立つわーとか思ってたんだけどさ。アホほど甘やかしてくれるし、まぁ仕事だから俺を落とすような事とか態度とか言葉とか選んでるんだろうと思ってたんだけど、あの人、素であれなんだよ。怖いわ。それより怖いのがたまにときめいちゃったりする俺だよ!なんだこの展開!!どうしてくれる!」
そう言ってまたテーブルに額をくっつける。
わかる。
その気持ち、ちょっと違うけどよくわかる。
チャンミンはテーブルとお友達になっているキュヒョンの手にしっかり握られたままのグラスにビールを注いだ。
「どうしてくれるだよなー。男気あるかと思えばめっちゃ天然だし、美人だし。自覚してからはもう何してても可愛いなとか思うし、考え直せ自分!とも思うけど考え直すもなにもだし」
とにかくもて余しているのだ。
この複雑な感情を。
最近ではユノが近くにいるだけで、ザワザワするものだから距離をとるようにしているのだけど、あの天然さで無邪気に詰めてくるものだから逃げすら出来ない。
なんとなく距離をおこうとしているのは察知しているようだけど、当たり前の事ながら彼にはそうされる理由は考えにも及ばないだろうし、そこに至られても困るのだ。
だからこそ逃げるわけにもいかない。
同じくなんとなく察知しているらしいボアは意味深に微笑んでいたけど、それもある意味怖い。
恋は突然、なんの前触れもなくやって来るらしいがこれは厄介だ。
「なぁ…」
キュヒョンがグラスの中で登っていく気泡をぼんやりと見つめて呟く。
「何だよ」
「んー…これってそのうち消化される?今仕事で一緒に居るからこんな気持ちになってるだけで、終わったら普通に戻るかな」
「うわー…盲点。そこまで考えが及ばなかった」
「チャンミンのくせに」
「なんだそりゃ」
「そういうとこ冷静なんだと思ってたわー」
「冷静だったらお前に相談しない」
「そりゃそっかー」
くつくつと笑ったキュヒョンはのそりと上半身を起こして溜息を吐いた。
「終わっちゃったら接点なんて超絶少なくなるじゃないか」
「そうだな」
「え。どうしよ。痛い」
「は?どこが」
「わかんね。もう体中痛い気がする」
「泣くなよ」
「泣いてない」
困ったことにチャンミンにとっても全く他人事じゃない。
クランクアップしてしまえば、ユノとの接点なんてほぼ無い。
今良くしてもらっていても、次の作品の撮影が始まればそこで会った人物に自分の立場がシフトチェンジするだけなんじゃないだろうか。
キュヒョンの「痛い」という表現はあながち間違っていない気がするのは自分も同じだからだ。
「来週末さぁ。最終シナリオ提出なんだ」
途中で何度か提出、修正を繰り返してほぼ出来上がっているが最終の修正が終わる。
「偶然だな。俺も来週クランクアップだ」
「終わりだなぁ」
「だなぁ」
「…って!! 終わらせられるかぁぁぁぁぁっ!どうせ終わるなら玉砕してやるっ!告ってやるっ!!どうとでもなれっ!」
予想以上に酔っているキュヒョンが立ち上がって高笑いしている。
さっきまでの凹み具合の反動か何故かハイテンションになっている彼はチャンミンを指差した。
「なんだよ」
「お前も告れ」
「はぁ!?」
「どうせなら二人で玉砕して慰め会しよー。よし。いい酒用意しとく」
ふにゃっと笑ったキュヒョンの提案は非常にバカげていると思う。
それでもチャンミンも予想以上に酔っていた。
何故か名案に思えるほどには。
クランクアップしてしまえば会う機会なんてめったにないないだろうし、会って避けられても今以上にキツイことはない気がした。
何より彼は自分の気持ちをきっと面白半分で扱ったりしないと思う。
「じゃあ俺もいい酒用意しとく」
その翌日酔いが醒めて二人して後悔したけれど何故か妙な男気を発したキュヒョンが「男に二言はないんだよ」と渋い顔でそう言った。
仕方がないので慰め会用にいい酒をポチったチャンミンは盛大な溜息をついて、とりあえずどう切り出すかを真剣に考え始めたのだ。