ワールドワイドなアイドルグループSUPER JUNIOR。
泣く子も黙る…いや、笑わせるアイドルグループSUPER JUNIOR。
今日も今日とて空の上。
移動という名の休息時間。
「着いたらのんびり出来そうだなぁ」
腕を伸ばしながら嬉しそうにイトゥクが言うと、隣に座っていたシンドンが頷く。
スケジュール変更があったため現地についてから丸1日余裕が出来た。
貴重な時間をホテルの部屋でのんびり過ごそうとご機嫌なイトゥクをよそに、他のメンバーはショッピングや美味しい店を探すのを楽しんでいるようだ。
シンドンも部屋で色々と作業を熟したいらしく、特に予定をたてるような素振りもない。
「ここのところスケジュール詰まってたしなぁ」
首の後ろを解しながらそう言うと、シンドンが自分のショルダーバッグを探って銀色のジップバッグを取り出した。
「よかったら飲んでみる?タブレット菓子みたいになってるからそのまま食べられるよ。これ飲み始めてから調子いいんだよね」
シンドンが言うのだから問題はないだろう。
受け取ったジップバッグのラベルは白地に柔らかい紫色で曼荼羅のような模様が描かれていてその真中に商品名が書かれている。
掌に出したタブレットを口の中にいれると酸味と柑橘系の爽やかな香りがする。
「あ。美味しい」
「僕も欲しい」
後ろの席に座っていたリョウクが手をのばしてくる。
健康、美容といった事に人一倍関心がある彼のことだ気になっても仕方がないだろう。
ジップバッグの成分表示を見ながらタブレットを口に入れたリョウクは満足そうに口角を上げると、隣でアイマスクを着けてネックピローと友達になっているキュヒョンの肩をバシバシと叩く。
「ギュギュ、これ疲労にいいんだって!疲れてるんたから食べとこ。はい、あーん」
小さく唸りながら口だけをパカッと開けるキュヒョンの口にタブレットを放り込むともごもごと口を動かして、また枕に頭の収まりがいい位置を探して、ふぅっと息を吐き出した。
通路を挟んだ席のウニョクがその様子を見て笑う。
「それ飴?」
「ううん。サプリだって。タブレット菓子みたいに食べられるって」
「あーじゃあ頂戴。なんか乾燥してて喉がイガイガするんだよな」
本来の使用方法とは若干違う気もするが、飴の代わりにはなるかもしれない。
リョウクはそれをウニョクに手渡した。
「…今更だけど、ヒョクヒョン重くないの?」
ウニョクの肩を枕にして爆睡しているドンヘを指して言うと「慣れた」と返されて、リョウクは此処に関しては今後突っ込むまいと心に決めた。
と、いうより突っ込んだ自分が今更だったなと突っ込みたくなった。
相変わらずのわちゃわちゃしたメンバーを見回してイトゥクもあとしばらくの移動時間を睡眠不足解消に費やそうとシートに深くかけて目を閉じた。
その数時間後。
タブレットを口にしたメンバーが叫ぶことになる。
「なんじゃ、こりゃ!」
と…。
【83】
ヒチョルのスマホに着信があったのは食事の約束をしていたスタッフと待ち合わせの時間のためにホテルの部屋を出ようとしていた時だった。
表示された名前に何事だと、通話をタップする。
「どーした」
『あー…今、大丈夫?』
「大丈夫じゃないけど大丈夫だよ」
『なんだよ、それ』
呼吸で笑うような声が聞こえて少し安心する。
「で、どーした?」
『ちょっと…身体が変な感じで…』
「熱でもあるのか?」
『熱はない。無いんだけど…脂肪が急にどんっと…』
「はぁ?」
何を言ってるんだこいつ。
ヒチョルの感想はご尤もである。
「多少太ったくらい気にすることないだろ」
『そういう事じゃないんだよ!』
「じゃあどういう事だ」
『…説明しにくい、ちょっと来てくれない?』
「…今から飯行くけど、一緒に行くか?」
『出られない』
これは相当だな、と溜め息が出た。
なんだか最近疲れ気味だったみたいだし、メンタル面にも影響がで始めたのだろうか。
「わかった、とりあえず部屋教えろ」
部屋番号を聞いて通話を切ると、ヒチョルはまずロビーに向かって一緒に食事に行く予定だったスタッフに急な予定変更を謝罪した。
ありがたいことに特に気を悪くした人は居なかったようで逆にこちらの体調を気遣ってくれるスタッフに「もし途中でも来れそうなら来てくださいね」と声をかけられた。
さて…とヒチョルは前髪をかき上げてエレベーターの階数表示を睨むとイトゥクに教えられた部屋番号のある階数を押した。
ドアを叩くとしばらくしてドアが細く開く。
イトゥクが身体を壁際に寄せてヒチョルに中に入るように促した。
部屋に入ると何か様子が違っている気がして、イトゥクを振り返るとその理由に納得する。
ベッドの上がスッキリしていると思えば、彼が掛けふとんを身体に巻きつけているからだ。
「何やってんだ?」
「いや、急な変化にビックリしすぎて見るのが怖い」
「意味がわかんねぇよ」
「俺だって分からないんだよ!」
「とりあえず説明しろ」
渋々といった様子でイトゥクが巻いていた布団をベッドに戻す。
「は?」
「な?」
腕を組んでイトゥクが苦笑いした。
「これを言葉で説明したところで誰が信じる?」
「…だな」
声も何も同じなのに。
胸があるとか何事だ。
アニメは好きだが現実に男性が女性の身体になるなんてことあるのか?
「なにがどうなってんだ?」
「それはこっちのセリフなんだが?」
派手に音を立ててベッドに座り込んだヒチョルも腕を組む。
「と、いうか。思ったより俺達冷静だな」
「人間、驚きすぎると逆に反応薄くなるのかね?」
「…何した、何食った、何処行った!!」
「普段通りだよ!!」
大凡冷静とは程遠い勢いで二人が叫ぶ。
「どうすりゃ戻るんだよ!明日のライブどうする!?」
「ヤバい!服脱げないじゃないか!」
「…お前の変なとこでブレないところ嫌いじゃねぇわ」
「俺も、変にパニックにならないでいてくれるヒチョルが居てよかったよ」
はぁ、と二人で項垂れる。
「これ、元に戻るのかな」
「アニメとかコミックなら18禁設定事項やらかせば戻るとかあるよな」
「…それはヤダ」
「嫌だってなんだよ」
「だってそんな理由ですることじゃ無いだろ」
「ロマンチストだな」
「まぁね」
「とりあえず朝から順番に思い出せ。いつもと違うこと無かったか」
起きてー、シャワー浴びてー、と順番に口にするイトゥクに子供かよと突っ込みたくなったが黙って聞いておくことにしたヒチョルは備え付けの冷蔵庫からイトゥクがコンビニで買ったであろうペットボトルを取り出してキャップを空ける。
これくらいは許されるだろう。
空港いってー
飛行機乗ってー
あ。
何かを思い出したらしいイトゥクに視線をむける。
「そういえばシンドンにサプリ貰った」
「それか!」
「でも、あいついつも飲んでるって言ってたし。…リョウガも貰ってたな…」
「他にも居るか?」
「キュヒョナとヒョク」
「まとめて変わってたらそいつが怪しい」
ヒチョルはスマホを手にすると何やら打ち込み始める。
「ここが賑やかにならないことを祈るしかないな」
なんのことやらと首をかしげるイトゥクに自分が着ていたカーディガンを投げてヒチョルは眉をひそめた。
「とりあえず目の毒だから着てろ」