定例会議。
毎回同じような報告をして何も変わらない無駄な時間の浪費を繰り返している。
隣に座るドンヘの白衣の腰辺りを引っ張ると苦笑いされた。
「あと少しだから」口の形がそう告げる。
確かに、後は締めの所長の言葉でも聞けばお開きになるだろう。
「ところで。パク研究室の学習型の人工知能を使ったヒューマノイドはその後問題ないのか?」
どこのどいつか知らないが、俺様の貴重な時間の一分、一秒でも無駄に使いやがった罪は重いぞ。
「それはもう。順調すぎるほどに」
三体造り出したプロトタイプの人工知能のヒューマノイドは一つに不備が見つかって早々に破棄されたものの、後の2体は問題なく作動している。
外に出ている一体については、やはり色々なことを吸収するのが速い。
ここにいる人間以外の人に多く触れ合えることは、その分学ぶことも多いようだ。
キュヒョンの成長はそれはもう目覚ましいほど。
「ところで、今日はパクチーム長は?」
「そのヒューマノイドのメンテナンス中ですよ。すみませんね、サブリーダーの俺で」
ざわりと一瞬空気が変わる。
とっとと終わりやがれ。
「ヒチョルヒョンさぁ、もう少しでいいからおとなしく参加してよ」
俺の後ろを歩くドンヘが溜息と共に吐き出した言葉に舌を出す。
「そもそも何度同じ説明をしなきゃならないんだ。あいつらはバカなのか?」
「思うのはいいけど、口に出しちゃダメでしょうが。またジョンスヒョンのところに苦情行くよ?」
そこだよな。
だから、それだって直接俺に言えばいいじゃないかって話なんだけど。
自分たちのチームの研究室のドアの前に立つ。
生体認証で開くドアの向こうではジョンスとキュヒョンが何やら楽しそうに話をしていて、まるで兄弟に見えた。
「人に会議押し付けといて、えらく楽しそうだな、おい」
「あ。お帰りヒチョラ、ドンヘ」
ドンヘがジョンスの背後から抱き着く。
「ジョンスヒョン、もうヒチョルヒョン行くと大変なんだよぉぉ」
「はいはい、悪かったよ」
ポンポンと頭を撫でられてドンヘがにかっと笑った。
こっちはこっちで親子みたいだな。
「ドンヘヒョンもヒチョルヒョンもお疲れさま。お菓子あるよ?」
キュヒョンが笑いながら箱を差し出してくる。
甘いものは好きじゃない。
けれど今の精神的な疲労を回復してくれそうな気がしてその中から一つ手にすると、ジョンスが珍しいと笑いつつコーヒーの入ったマグカップを俺の前に置いた。
この辺りはよくわかってるな、こいつは。
「シウォンくんからだって。ここ、最近出来たバターサンドの専門店なんだよ。食べてみたかったんだよね」
ジョンスは嬉しそうに笑ってそれを口にはこぶ。
「で。ドンヘ。ヒチョラは何をしでかしたの?」
事の一部始終を聞いたジョンスはくつくつと笑って、綺麗な眉を少し下げる。
「まぁヒチョラらしいよね。また嫌味は言われるだろうけど、仕方ないか」
「俺に直接言えって言っとけ」
「言ったって堪えないだろ、ヒチョラは」
二個目のバターサンドに手を伸ばしたジョンスは包装紙を剥がしながらドンヘに笑いかける。
「確かにヒチョラの発言は後始末も大変だけど。本質は間違ってないから聞いててスッキリはするんだよね」
「あー…だよねぇ」
なんだか知らないが、納得するなドンヘ。
そんな様子を楽しそうに見ていたキュヒョンが時計を見て立ち上がる。
「そろそろ帰るね。ジョンスヒョン、これありがとう」
小さな紙袋を掲げて笑う。
「なんだ、それ」
「シウォンくんにお礼、と、頑張ってるキュヒョナにご褒美かな?」
ふふっ、と、はにかんだような表情。
キュヒョンは感情に関してはかなり学習しているんだろう。
こちらに手を降りながら帰っていく背中を見ながら、ジョンスに問いかける。
「あれ、いつからだ?」
「何が?」
「キュヒョナだよ。いつからシウォンって奴に惚れてんだ?」
ジョンスが飲みかけのコーヒーを噴き出した。
「きったねぇな」
「な、な、なんで!?」
「そりゃ、分かるだろ。あれはお前が造ったものでもあるけど、俺が造ったものでもあるからな」
可愛くないわけがない。
ここにいる他の研究者ならともかく、俺には表情や雰囲気の違いは十分に伝わる。
「ヒチョラ、あの二人は…」
「別に咎めやしないよ。…キュヒョナには必要だったんだろ。自然の流に逆らえやしないからな」
キュヒョンは最初から他のヒューマノイドとは違っていたんだから。
どんなことがあったとしても驚くことじゃない。