ああ。
なんでこんなことに…。
チラリと横を見ると満面の笑みを湛えたヒョンが居て溜め息が出た。
+。:.゚** *。+。 .***.° *°。 。 °。 。 * ゚.*・。゚ *゜ . *¨* .
広げたマキシワンピースを口を開けて見ている俺にヒョンが楽しそうに、さらりと言ってのけた。
「せっかく貰ったんだから、着てよ」
いや、俺さ、酔っぱらってるよ?
でもさ。
これを着る理由がないことくらいは理解出来る程度には回復してるわけですよ。
「やだ、絶対嫌だ!」
「この前は楽しそうに着てたくせに」
「だって、あれはファンサービスだし!あのメンバーだから悪ふざけしただけでしょーが」
そりゃあ、そうでしょ。
別に女装趣味が有るわけでもないし、面白がってじゃなきゃしないよあんなこと。
それなのにヒョンはふっと笑う。
「俺が一番キュヒョナのファンに決まってるんだから、サービスしてよ」
はい?
えっと、どこかのネジ緩んでるのかこの人。
多分よっぽど呆れた顔をしていたのか、ヒョンは苦笑いして提案した。
「じゃあ、ゲームでもする?」
「ヒョンが俺に勝てるわけがない」
「そりゃあね。でもハードとソフトがいらないものなら判らないでしょ?」
「…なにそれ」
「例えば…そうだなぁ。じゃんけんとか腕相撲とか?にらめっこってのもあるけど。俺が勝ったら着てよ」
「それ。俺には何の得もないじゃない」
「んー…。そうだな。じゃあ俺が負けたら1日キュヒョナの言う事なんでも聞くってのは?」
「…なんでも?」
「何でも」
「じゃあ欲しいもの買ってって言ったら買ってくれる訳?メシ奢ってって言ったら奢ってくれるの?遠出したいって言ったら連れてく?して欲しいこと全部してくれるの?」
「もちろん」
なんだか分からないけど。
要は勝てばいいだけの話じゃないの?
俄然やる気が出た。
やってやろうじゃないか。
+。:.゚** *。+。 .***.° *°。 。 °。 。 * ゚.*・。゚ *゜ . *¨* .
そして現在に至る。
赤いマキシワンピースにウィッグまでしっかり被って、ソファーの肘掛けに肘をついて頬杖をついたままそっぽを向く俺にお構いなしにヒョンは隣に座って「やっぱり可愛い」とにこやかに笑っている。
「メイクしなくても可愛いとか脅威的だなぁ」
「そんなこと思ってるの多分シウォニヒョンだけだよ」
「あぁ、その方がありがたくていいんだけどね」
ちらりと見た表情があまりにも幸せそうで、なんかこっちが恥ずかしい。
伸びてきた手が頬を撫でて、髪に触れる。
長い髪を一房手にしたヒョンはそのままそれにくちづけた。
キザだけどそんな行動すらヒョンらしくて。
イラッとした。
さらりとこんなことをやってのけるくらいに女性の扱いに慣れてそうなのを見るのは気分がいいものじゃない。
いままで付き合ってきた女性の影を見ているようで。
自分とは全く違う相手に嫉妬する。
どうしたって敵う訳がない見えない相手にイラッとする。
「可愛い」
ヒョンがそういう度に小さな苛立ちが、髪を撫でられるたびに微細な苛立ちが澱のように沈んで積もっていく。
普段言われるのには慣れちゃったし、寧ろヒョンに言われるのは嫌いじゃない。
髪を撫でられるのだって嫌いじゃない。
けれど、今はダメだ。
「…髪が長い子がいい?」
「ん?まぁ、女の人は女性らしくていいかな」
「だったら髪の長い可愛い女の子にすれば?俺なんかよりよっぽどいいでしょ」
ああ、こんなこと言うつもりなんてないのに。
チャンミンのバカヤロウ。
何が「魔法のアイテム」だ。
これ「呪詛」がかかってるんじゃないのか?
暫く黙って俺を見ていたシウォニヒョンが大きく深く息を吐き出した。
「…キュヒョナより好きになれる人なんていないよ」
「俺は髪も長くないし、女の子じゃないよ。こんなワンピースだって普段着るわけじゃない」
「そんなの知ってるよ。全部、知ってる」
にっこりと人を惹きつける笑顔を作ったヒョンが長い髪をまたふわりと握った。
「俺はね。キュヒョナじゃなきゃダメなんだ。可愛い女の子も嫌いじゃないけど。どんなに華やかな場所に居てもキュヒョナが居ない時の泣きそうな孤独なんて知らないだろ」
ヒョンの方こそ。
どんなに楽しい場所に居たって、貴方が居ない時のくじけそうな俺の孤独なんてしらないくせに。
こんなことで嫉妬するほどのくじけそうな孤独なんて想像もしないくせに。
ようやく体を動かして、ヒョンの顔を覗き込むように下から唇に触れる。
「だったら、どんなにヒョンが俺を愛してるか知らしめるべきだ」
驚いた表情のヒョンに満足してそう言うと、ヒョンは蕩けそうな笑顔を作る。
「…確かに魔法のアイテムだ」
「…そうだね。魔法のせいだから」
明日には忘れてくれたらいい。
全てを蕩けさせるキスを受けながらそう思った。