世の中には科学では説明出来ない事が沢山ある。
それは科学的証明はされていなくても現実だったし、非現実的であるにもかかわらず自分はすんなりと受け入れられた。
なぜならそれが目の前にあった現実だからだ。
しかし、今テーブルの上に置かれている物を受け入れるのはどうしても納得がいかない。
それが間違いなく目の前にある現実だというのに。
「どうしろって言うんだ…?」
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事の起こりは数日前の朝のこと。
「朝食は仕事がない限り手間だから全員で」が合い言葉のようになっている宿舎の仲間達は、朝から揃ってきっちりと食事を摂る。
オレンジジュースの入ったグラスをダイニングテーブル置いたリョウクが心配そうにキュヒョンの顔を覗き込んだ。
「ギュ、これだけでも飲んで」
グラスを受け取ると、リョウクの腕をトンと叩いた。
辛そうに頭をテーブルに預けているキュヒョンに溜息をついてその場を離れたリョウクは、何かが倒れる音に振り返る。
「キュヒョナ!」
慌ててキュヒョンの元に走りよったリョウクが倒れたグラスを立てて、キュヒョンの顔を覗きこんだ。
「大丈夫?」
「ああ、ちょっと…貧血かな」
フラリと倒れそうになる身体を慌てて支える。
布巾を持ってきたウニョクが零れたジュースをふき取りながらキュヒョンの顔を見る。
「病院…行けよ、酷い顔色だぞ?」
「…そう、する」
リョウクに支えられたまま部屋に向かうキュヒョンの背中を見つめて、ドンヘがぽつり。
「あんなに素直に従うなんて…よっぽど体調悪いんじゃない?」
心配そうに眉を寄せて不安そうなウニョクに笑顔を向けた。
「ま、でもキュヒョナなら大丈夫だよ。お前は心配しないでしっかり飯食って仕事しろー」
「…お前が言うか?」
このところ体調は良くない。
貧血のような症状は日毎酷くなるようだった。
正直、これはヤバイな…とは感じていたのだ。
女性ならともかく、基本的に男に貧血というものは起こりえない。
身体に何らかの異常が無い限りは。
だからウニョクの言葉に素直に従ったのだ。
なんだかんだと検査を受けて待合室で結果を待つ。
看護士の穏やかな声で名前を呼ばれて顔を上げると、にこにこと、けれど少し困ったような顔で頭から足先までを確認するかのように視線を流されて、キュヒョンは少しばかり眉を寄せた。
「第3診察室の前でお待ちください」
第3診察室…?
大きな総合病院である。
キュヒョンは天井からぶら下げられているプレートを頼りに第3診察室を見つけて呆然とした。
「うそ…だろう?」
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「うそ、だよな?」
ドンヘは目を丸くしてテーブルの上を見つめている。
「嘘であってほしいのは俺の方」
シウォンは先程から床に膝立ちしたまま、椅子に座っているキュヒョンの腰に腕を回して抱きしめている。
「シウォニヒョン、うざい!」
「だってキュヒョナ!赤ちゃんだぞ!?もう嬉しくて…」
すりすりと腹に頬を摺り寄せるシウォンにキュヒョンは考えることも疲れてくる。
「4ヶ月って、有り得ないだろ…?」
テーブルの上の写真を手にとって、溜息を吐く。
これが自分の体内の写真だというのだ。
誰かのものと間違ったわけではない。
実際自分の目の前で自分の腹に機械を当てられて撮られた「エコー写真」なのだ。
もうすでに「人間」であるものが映っている。
「どうなってるわけ?」
「写真での判断で4ヶ月くらいって言われただけで実際はわかんないよ」
「そういう問題じゃなくて…」
キュヒョンががっくりと肩を落とした瞬間
「ギュー !! 」
息を切らせながら楽屋に入ってきたリョウクの姿。
「体調大丈夫 !? 」
キュヒョンはリョウクが泣き出しそうな顔で駆け寄ってくるのに苦笑いを浮かべた。
「大丈夫だよ」
「って、いうか!なんで幸せそうな顔でシウォニヒョンが抱きついてるの!?」
その後ろから入ってきたヒチョルが呆れ顔で二人を見下ろす。
「それじゃ、まるで懐妊報告した後だぞ」
「…まるで、じゃなく、その通りなんですが…」
「あのねっ!みんな心配してたんだから、そんな冗談やめ…」
つかつかとキュヒョンの元に歩み寄ったリョウクが怒りのまま怒鳴ろうとした、その瞬間。
テーブルの上にあったものを見つけて固まってしまった。
「本当、なの…?」
「冗談でこんなもの、もらってくると思うかー?」
ブンブンと音がしそうな勢いで、リョウクは首を横に振った。
「どーなってんの?だって…ギュ男だから、そんな器官ないでしょう?」
「よく分からないけど…仕方がないから即席で出来たんじゃない?」
あまりの言い様に、リョウクは吹き出した。
あまりにもキュヒョンらしくない言葉だったから。
「笑うなよ。科学では証明出来ないことが多すぎるんだ…」
拗ねた顔でテーブルの上のフルーツを口に入れる。
「証明できることばかりじゃ面白くないしねー」
「印、だよ」
今まで発言をすることなく、ただただ幸せそうにキュヒョンに抱きついていたシウォンはポツリと囁く。
「しる、し?」
「そ。俺がちゃんとキュヒョナを愛せている印として、この子はここに来てくれたんだよ」
「シウォニヒョン…」
コホンとリョウクが咳払いをした。
「なんか…どうしたらいいの、この人」
「そうだな…」
リョウクとヒチョルが顔を見合わせて溜息を吐いたところで、イトゥクがひょっこりと顔をだす。
「何、集まってるんだー」
そのままテーブルの上の置かれているものに手を伸ばした。
「ん?これ、なに?」
そこに書かれている文字は読み間違いようもない【母子手帳】
「え、と。キュヒョンの名前…?また手の込んだ冗談だなぁ。誰だよこんなの考えるの。
キュヒョナ、ママになるの?」
「そうだよ」
「じゃあ赤ちゃん生まれたら、俺にもだっこさせてくれよな?」
あまりにも疑いの無い笑顔を向けられて、キュヒョンは自然に笑顔を作った。
「もちろん」
ここで、まだリーダーがただの冗談だと思っていることは、全員がきれいさっぱり忘れている。
まぁ、その方が幸せだ。
「しっかし、どうなってんだろうギュの身体…」
「まだ、気になるのかよ?リョウガ」
「えー。ヒチョルヒョンは気にならないの?」
「気にしない方がいいかな…と」
「うーん…」
突然リョウクは目を輝かせる。
「分解してみたいよね!」
「…その場合、分解、ではなく解剖が正しいんじゃないか…?」
「おい!聞こえてるよ、そこ!」
今日も楽屋は平和だ。
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もう…ごめんなさい。
だってさ。
だってスパショの写真が…
どう考えたって…。
ごーめーんーなーさーいー!!