美結に連れられて

鞆の浦の円福寺に来たトマト達。

佑里香「ここが円福寺か〜」

愛梨「猫がいる」

そこには、黒猫とオレンジ色がいる。

真里愛「猫ちゃ〜ん♪」

オレンジ色の猫「...」(怯えて逃げる)

真里愛「逃げないで!アアアアアア!」

ダッシュで追い掛ける真里愛に引きつる愛梨。

愛梨「...」

黒猫「ニャ〜」

佑里香「人懐っこいね」

美結「その黒猫は俺の推し」

佑里香「猫にも推しがあるんだね(笑)」

佑里香「名前つけてるの?」

美結「"ながお"尻尾が長いから」

真里愛「雑すぎ(笑)」

真里愛「他にいい名前なかったの?」

真里愛「ダリアとか」

美結「ブランドじゃねぇんだよ」

愛梨と佑里香はスマホで猫を撮影する。

トマト「...」

トマトは離れた場所でスマホを触っていた。

美結「トマトも来いよ〜」

トマト「猫嫌い、毛つくじゃん」

美結「お前は海も嫌いで猫も嫌いで」

美結「何が好きなんだよ」

美結「鞆のメインは海と猫だぞ」

真里愛「あと、坂本冬美!」

美結「坂本龍馬な」

トマト「うちは保命酒飲みたいわ」

美結「昼も酒か」

その賑やかなやり取りの中で

円福寺の静けさが心地よく感じられる。

彼らの笑い声が境内に響き渡り、

まるで猫たちもその楽しさに

引き寄せられているかのようだった。


階段を上って本堂でお参りをする佑里香。

トマト「...」

真里愛「...」

トマトのLINEトーク画面を

横から見ている真里愛。

真里愛「誰?」

トマト「店の客」

トマト「コイツめんどいから相手してやってる」

真里愛「確かに面倒そう」

男の相手をするのは慣れているトマト。

美結「暑ちー...」

美結「...」

美結の目に入ったのは墓地へ下りていく黒猫。

美結「ながちゃ〜ん」

美結は追いかける。


墓地へ行くと、黒猫の姿はない。

美結「あれ?ながちゃーん」

そこへ愛梨が美結を見下ろす。

愛梨「...こんなところで何してるん?w」

美結「ながちゃん見なかった?」

愛梨「誰?ながちゃん?」

美結「黒猫」

愛梨「いや、見てないけど」

美結「えー...どこ行ったんだろ」

美結「見間違いかな?」

美結は黒猫を探しに行く。

愛梨「...」

愛梨「ん?...」

愛梨の前を黒猫が素早く横切る。

愛梨「これか?」

愛梨は階段を下りて近付く。

愛梨「...あ、消えた」

愛梨は戻ろうと振り向いた瞬間...

(バッ!)

顔面に向かって黒猫が襲いかかってくる。

「ニャアアアアアア!!」

愛梨「っ!?」


真里愛と佑里香は、

ゲージの中の猫達を眺めていた。

美結「...なんだ、ここにいたのか」

美結「先に帰ったのかと思った」

佑里香「いやいや...帰らないよ」

真里愛「美結、この猫ちゃん達は?」

美結「キャットハウスで管理人に飼われてる」

佑里香「へ〜...!何匹いるの?」

美結「ここ2年入ってないから分からんけど」

美結「10匹以上はいる」

佑里香「えっ!そんなに?」

真里愛「多!」

美結「あのビビリの猫、連れて帰ってくれw」

佑里香「怖がりなら余計難しいね(笑)」

すると、美結の足元に黒猫が近付いてくる。

ながお「ニャ〜」

美結「あっ!ながちゃん!」

美結「どこ行ってたの〜...探してたんだよ」

真里愛「その猫ベンチの下で寝てたよ」

美結「マジ?!わざわざ墓地回ってたんだけど」

佑里香「あ〜...(笑)」

トマト「そろそろ保命酒行こうや」

美結「お前は酒のことしかねぇのか」

トマト「暇だもん」

佑里香「あっ...愛梨さんは?」

真里愛「忘れてた」

美結「忘れんなww」

トマト「愛梨?どこおるん?」

美結「さっき墓地のところで話した以来」


美結達は墓地の前に来たが、

愛梨の姿は見当たらず。

真里愛「どこにいるの?」

美結「やっぱ移動してるよなぁ」

美結「...墓地の中もいないし」

美結「皆、せーので愛梨〜!って大声で叫ぼう」

トマト「この歳でおかしいだろ」

真里愛「そういえば、愛梨さんって」

真里愛「ドライフラワーの歌手と同じ名前!」

美結「それは優里」

佑里香「愛梨さんに電話かけた方が早いかもね」

美結はLINEで愛梨に電話をかける。

(♪~)

美結「...」

美結「出ない」

佑里香「マジか...」

真里愛「先に帰ったんじゃない?」

真里愛「それで電話に出ないとか(笑)」

美結「そんな薄情な奴じゃないだろ」

佑里香「取り敢えず下りる?」

佑里香「戻ってきてる可能性あるし」

美結「そうだな」


階段を下りた先には...

真里愛「あっ!いた」

背を向けて立っている愛梨の姿があった。

美結「愛梨、探したよ」

愛梨「...」

愛梨は微動だにせず振り向かない。

美結「反応なしww」

トマト「愛梨ー」

愛梨「...」

真里愛「ボーッとしてる」

佑里香「...大丈夫〜?」

佑里香はそっと愛梨の横に近付いた瞬間...

愛梨「ニャアアアアアア!!」

振り向いた愛梨は、

牙を光らせて恐ろしい表情だった。

佑里香「っ...!?」

美結達「!?」

佑里香「どうしたの...?」

(グッ!)

愛梨は佑里香の首元の服を強く引っ張る。

佑里香「ちょっ...何...?」

佑里香は愛梨を振り払うと離れる。

愛梨「ニャアアア!!」

(バッ!)

襲いかかってくる愛梨に

佑里香は走って逃げる。

トマト「やば〜...ww」

真里愛「愛梨さん、猫が好きだからって」

真里愛「なりきらなくても...」

トマト「おもろw」

真里愛「ギャップがエグい」

トマト「はははwww」

美結「...笑い事じゃないだろ」

美結「愛梨があんなことするなんておかしいわ」

真里愛「お調子者だったんだよ」

美結「調子者でもあんなことしないだろ」

真里愛「それ以外に何?」

美結「...精神的」

トマト「お前失礼だぞww」

美結「でも、それ以外考えられんわ」

そこへ階段から急いで下りてきた観光客達が

走って逃げ去る。

女児「怖い...」

真里愛「...ちょっとやり過ぎじゃない?」

トマト「まだ猫になりきっとん?w」

美結「なりきってるんじゃないんだって」

すると、階段の上で愛梨が姿を見せる。

真里愛「...え」

トマト「っ...」

その瞬間、トマトと真里愛は青ざめる。

トマト「...」

真里愛「ヤバい」

トマトと真里愛は後退りをする。

美結「...?」

トマトと真里愛は全速力で階段を下りていく。

美結「何...?」

トマト「早よ逃げろや!殺されるぞ!」

美結「...」

美結が振り向いた先には、

小鳥の死体を咥えた愛梨が近付いてきていた。

美結「っ...!」

血の気が引く美結は走って階段を下りる。


路地裏に出た美結達は、

細道を抜けて街路に出る。

トマト「...来てない?」

真里愛「今のところは...」

美結「...」

トマト「あのバスに乗ろうや!」

トマトと真里愛はバス停に向かって走る。

美結「っ...」

美結は思い出したように立ち止まる。

トマト「...何やってんだよ!早よ来いや!」

真里愛「急いで!」

美結「...先に行って」

美結は走って円福寺へ戻る。

トマト「はぁ?!何考えとんアイツ!」

真里愛「意味分かんない!」


美結の脳には、黒猫のながおが浮かんでいた。

美結「ながおが...ながおが殺される...っ」

階段を数段飛ばして上がっていき

息を切らして円福寺に戻る。

美結「はぁ...はぁっ...」

美結「...」

そこには人影も無かった。

美結「...ながお?」

美結「ながちゃん?」

美結「...」

美結「大丈夫だよね...逃げてるよね」

ながお「ニャ〜」

美結「っ...ながちゃん!」

美結「良かった...」

美結「...安心してる暇はない、おいで!」

ながおを導いて階段を下りようとすると...

美結「っ!...」

その先には、愛梨がいた。

美結「ながちゃん、来て!」

美結は反対方向の階段を上がる。

ながお「...」

人の言葉が通じないながおは動かない。

美結「っ...」

その背後にゆっくり近付いてくる愛梨。

美結「ながお!」

愛梨「...」

ながお「...」

その異様な雰囲気に警戒をするながおは、

小走りで逃げる。

美結「ダッシュ!」

ながおは走って美結のところへ上がった。

その瞬間、愛梨は四足歩行で走って

階段を上がってくる。

美結「っ...!」

ながおは人が入れないスペースに逃げ隠れる。

愛梨「ニャアアアアアア!!」

美結を狙って追いかける愛梨。

美結「いやあああ!!」

本堂の中にいる住職の男性は、

その大声を若者達のふざけだと思っていた。


美結は墓地へ逃げ込んだ瞬間、

背後から勢いよく飛び乗ってくる愛梨。

美結「うっ!...」

(バタンッ!)

地面に倒れた美結は押し潰され、

首を強く噛まれる。

美結「っ...!」

何故、愛梨は突然こうなったのか。

現状に脳が追いつかず

抵抗できない力と痛みに死を覚悟した。

その時だった。

愛梨「ウ"...」

美結「...」

愛梨「ウ"...ウ"....」

愛梨の全身の力が抜ける。

美結「...っ」

美結は起き上がって愛梨から離れる。

愛梨「...」

美結「?...」

その先には、

こっちを鋭い目で見ている黒猫がいた。

美結「...」

すると、愛梨が動く。

愛梨「っ...」

その目は、いつもの愛梨だった。

美結「...愛梨?」

愛梨「えっ...」

愛梨は驚いて起き上がる。

愛梨「こんなところで寝てた...?!」

美結「憶えてないの?」

愛梨「...いきなり黒猫が襲ってきて」

愛梨「そこから記憶にない」

美結「...」

美結は目先にいた黒猫に視線を向けると、

姿は消えていた。

愛梨「怖っ...俺ボケてるわ」

愛梨「...」

愛梨は口の中の違和感に気持ち悪くなる。

それが血が混じった羽だとは思わず。

愛梨「ちょい、洗ってくる」

愛梨は墓地を去る。

美結「...」

さっきの黒猫が愛梨を取り憑いていたなら

あの猫が助けてくれたのだろうと美結は思う。

何故なら、

この場所は亡き猫と過ごしていたから。



翌日...

真里愛「愛梨さん...本当に戻ったの?」

トマト「怖い」

愛梨「戻ったも何も...記憶にないんだよ」

美結「...もう無かったことにしよ」

トマト「できるか!」

真里愛「...ところで、佑里香ちゃんは?」

真里愛「あの時以来見てないけど」

美結「LINEで"ごめん、時間だから帰るね"って」

美結「とっくに家帰ってたw」

真里愛「時間だからじゃなくて」

真里愛「怖くて帰ったんじゃないの?(笑)」

愛梨「...俺のせいでね」

美結「いや、それはない」

美結「愛梨が取り憑かれてるとは思ってないし」

真里愛「本気で逃げてたけど」

美結「愛梨はそういう人って思われたんだよ」

トマト「www」

愛梨「それ一番タチ悪いやつじゃん」

美結「佑里香にも折り行って話しとくからw」

真里愛「でも、また取り憑かれたら?」

美結「お祓いしたから大丈夫だよ」

トマト「その黒猫って」

トマト「お前が好きな猫じゃねーの?」

真里愛「ながおが取り憑いてたんでしょ!」

美結「...同じ黒猫でも見分けは付くよw」

美結「ながおの目は優しいし」

美結「左目の横に1本の傷跡がある」

真里愛「そこまで知ってるのね」

美結「当たり前だろ!ナメんなよ」

美結「俺とながおは4年の仲だ」

トマト「...まぁ、お前の連れって」

トマト「猫しかいないからな」

真里愛「そうだね」

美結「じゃあ、なんでお前ら俺といるんだ?」

トマト「暇だから」

真里愛「同じく」

美結「...そうか」

美結「今度、奢ろうと思ったけど」

美結「友達じゃないならね〜」

トマト「は?嘘も分かんないわけ」

真里愛「友達じゃないならここに来てないよ」

トマト「それな!」

愛梨「w...」

美結「都合のいい奴ら(笑)」