先週の土曜は、一人娘の結婚式だった。

披露宴のテーブルに置かれたメニュー・座席表を見ると、そこには、新郎新婦のプロフィールも載っていた。

ニヤニヤと眺めていたら・・・・・

いくつか項目がある中に、「座右の銘」という欄があった。

娘が何を書いたかな、と見ると・・・・・

「明日は明日の風が吹く」

ウケねらいか、とも思ったが、これはこれで彼女らしいのか、と、納得もできた。

いい加減なようでいて、今日生きることに集中しよう、ということでもある。

「明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。・・・」

その聖書の言葉を知らないはずはないのに、そうは書かない。

娘は、父に似たのか、父から外れたいのか、いずれにせよ、あまのじゃくなのだ。

さて・・・・・

「生きる」ことを後回しにしてはいけない。

そう聞いて、後回しにするなんてことがあるのか？と疑問に思った人は・・・・・

現に今を生きている人だろう。

でなきゃ・・・・・

生きることを自覚していない人、まだ、生きていない人かもしれない・・・・・

なーんて、脅かしてるようだが・・・・・

「『生きる』ことを後回しにする」とは、こういうことだ。

常に「将来のために今は我慢しなくちゃ」と言いつつ生きていること。

今していることは手段に過ぎなくて、素晴らしいことは全部将来にある、と考えていること。

それだって、目的意識があるだけいいじゃないか、と思う人もいるだろう。

クリスチャンの中には、それこそ終末を待望する生き方、と言う人もいるかもしれない。

たしかに、生きることそのものは目的ではない。

目的のために、今するべきことを行う必要もある。

何よりも、目的を持たない人生は空しい。

しかし、目的のためにやるべきことをやる、と言いつつ・・・・・

将来にあるとされる目的のために、今生きることを犠牲にしているのなら・・・・・

そのひとは、実は、「今」に集中することができなくなっているのかもしれない。

聖書には、こんな箇所もある。

それこそ、終末を待つ生き方のたとえとされている箇所だ。

１０人のおとめのたとえ。

花嫁の侍女たちが、訪ねてくる花婿の到着を迎えようとして待っている。

賢い５人はともし火と、それを灯しておくための予備の油を準備していた。

愚かな５人はともし火だけしか用意しなかった。

花婿の到着があまり遅いので、皆、寝てしまった。

花婿は真夜中になって到着し、１０人はあわてて起きて、ともし火を持って出迎えた。

愚かな５人は、油の用意が無かったために、ともし火を灯しておくことができなかった。

他の５人から分けてもらおうにも足りないので、店まで買いに走るしかない。

その間に婚礼の宴会が始まってしまい、遅れてきた５人は宴会場に入れてもらえなかった。

そんなたとえだ。

アリとキリギリスの話を思い出す人もいそうだ。

ちゃんとやるべき時にやるべきことをやっておかないと、後になっては間に合わない。

もちろん、そのことを否定したいわけじゃない。

むしろ、そのことを、より深く理解したいと思う。

「生きる」ことには、やれることを、「今、この時に」やる、という「今」への集中がある。

見方を変えれば、自分に与えられた役割への集中が、「今」を極限まで充実させる。

その上で、それが将来への準備になっている。

つまり、「今」を生きることは、将来へとつながる生を生きることになる。

将来のために今を犠牲にする、など、本来ならありえないことなのだ。

愚かな５人のおとめたちは、どこがどう愚かだったのか？

きっと彼女たちは、花婿の到着がもうすぐだと思い込んでいた。

だったら、これでいいだろう、そんな準備をしていた。

しかし、実際、花婿は真夜中になるまで来なかった。

何も夜中にしなくてもよかった買い物をするはめになり・・・・・

あげく、そのすべてが無駄に終わった。

賢いおとめたちは違った。

花婿の到着がいつになるかはわからない。

わからないからこそ、今できる精一杯の準備として予備の油を用意しておいた。

結局、到着を待てずに寝てしまって慌てて起きたのは、１０人とも同じ。

将来を分かった気になっていたか・・・・・

どうなるか分からないと覚悟していたか・・・・・

そこが彼女たちの分かれ目だった。

自分がこうだと思い描く将来像への執着が、今やるべきことをむしろ見失わせる。

本当の備えができない。

明日のことはどうなるかわからない。

だからこそ、今日を生きている意味がある。

だからこそ、今、この時を、精一杯生きる。

どうやら、人間の生き方としては、それで充分なようだ。