「これに着替えよ。」

シュリを伴い、リュージュの監禁部屋に入ってきたガロウは、彼女に絹布の衣服を差し出して言った。

「どうしたの、それ?」

「もう体も癒えたのだ。いつまでも病人の格好という訳にもゆくまい。」

寝台の上に寝そべったリュージュの着衣は、この邑で適当に見繕った農民の普段着で、病に臥せっている分には、まだ良かったが、健康を回復したリュージュには、確かに着替えが必要だった。

見るとガロウも身綺麗に整った衣を纏っている。

ガロウはリュージュを一時的に鎖から解放してやると、シュリに女主の着替えを手伝うよう命じた。

久し振りに瀟洒な着物に着替えたリュージュは、髪も軽く結い上げられて、姫君とまではゆかぬが、小綺麗な身形になった。

領巾を纏って佇んでいるリュージュを、満足げに見ていたガロウは、結った艶やかな黒髪に、珊瑚の簪(かんざし)を差してやった。

「何処から持ってきたの?」

「出所などどうでも良かろう。お前の為の品だ。──それに化粧道具もだ。」

白粉と紅の入った化粧用の小箱をシュリに渡す。

「綺麗に化粧をしてやれ。」

「化粧なんて、アタシ、した事ありません、旦那様。」

困惑するシュリに、ガロウは気色ばむ。

「自分で出来るわ。」リュージュは小箱を受け取り、鏡に向かった。

こざっぱりした服装に着替えられて、気持ちも明るくなったリュージュは、暫し虜囚の身の上を忘れて化粧に集中する。

「出来た。どうかしら?」

「綺麗だ。」最後に紅を差したリュージュに、ガロウは微笑みを浮かべた。

「これも付けてみよ。」

言って、ガロウは紫水晶の首飾りをリュージュに纏わせる。

「今日は随分と贈り物が多いのね。」

まんざらでもない様子のリュージュは、ガロウの前で一回転すると、おどけた微笑を見せた。

その姿を見て、ガロウも破顔する。

「今日は少し遠出するぞ。」

「何処へ行くの?」

「新しいねぐらへ移動だ。ここよりは幾分かましな場所だぞ。」

「新しいねぐら?いつの間に?」

「俺がこの鄙(ひな)で、無為に時を過ごしていたと思うか?──さあ、出立するぞ。」