配偶者居住権制度が2020年4月1日に施行されますね。
今回は少し気が早いですが,配偶者居住権の抹消登記について少し考察したいと思います。
居住建物の所有者は,配偶者に対し,配偶者居住権設定登記を備えさせる義務を負います(改正民1031条1項)。
そして,配偶者居住権の存続期間は,原則として,配偶者の終身の間とされていますので(改正民1030条本文),別段の定めや(改正民1030条ただし書),用法違反などなければ(改正民1032条4項参照),配偶者居住権は,通常は配偶者の死亡により消滅することになります。
では,配偶者死亡の場合の配偶者居住権の抹消登記の申請ってどんな感じになるんでしょうか?
配偶者居住権の新設に伴う不動産登記法の改正は,次のとおりです。
申請手続について特則は設けられていませんので,配偶者居住権の抹消登記申請は,原則どうりであれば,共同申請ってことになりそうです(不登法60条)。
しかし,配偶者居住権抹消登記の登記義務者って,配偶者死亡の場合には,配偶者の共同相続人全員ってことになりますよね。
これ,実務をやっている人ならピンとくると思いますが,ただ消滅するだけの関心の薄い登記申請のために,相続人全員の協力を取り付けるのって結構大変そうです。
配偶者居住権設定時に一悶着あったようなケースなら,なおさらです。
(さらに配偶者居住権は名寄せなどに多分載らないと思うので
配偶者死亡後,長年放置されて,リフォーム時などに抹消依頼がくる
なんてこともありそうです。
死亡した相続人がいて相続人が広がっちゃってるなんて事態も)
そこで何かないかと探したら,不動産登記法に,こんな条文がありましたね。
(死亡又は解散による登記の抹消) 第六十九条 権利が人の死亡又は法人の解散によって消滅する旨が登記されている場合において,当該権利がその死亡又は解散によって消滅したときは,第六十条の規定にかかわらず,登記権利者は,単独で当該権利に係る権利に関する登記の抹消を申請することができる。 |
この条文,実務で私は一度も使ったことがなく,かなりマイナーな条文ですが,以前から何か機会があったら使えそうな条文だなーって思っていました。
この69条って,権利消滅の定めの登記(不登法59条5号)がないと利用できないって私は勝手に思い込んでいたんですが,文献にあたってみたら,必ずしも権利消滅の定めの登記を必要とするものではないのですね。
旧不登法の文献ですが,旧不登法141条の解説で
「例えば,登記した地上権・賃借権の存続期間がある特定人の生存期間と定められ,かつ,その旨登記されているような場合にはこれに当たる」
(「判例先例コンメンタール特別法 不動産登記法Ⅲ」(三省堂)347頁)
との記載がありました。
旧不動産登記法
第百四十一条 登記シタル権利カ或人ノ死亡ニ因リテ消滅シタル場合ニ於テ申請書ニ其死亡ヲ証スル市町村長又ハ区長ノ書面其他ノ公正証書ヲ添附スルトキハ登記権利者ノミニテ登記ノ抹消ヲ申請スルコトヲ得。 |
したがって,別段の定めがなく,原則どおり存続期間を配偶者の終身の間とする登記がされた配偶者居住権が,配偶者の死亡により消滅したときは,登記権利者である建物所有者の単独申請により,抹消登記の申請をすることができると考えてよさそうです(私見です)。
何か勘違いやご意見があったら教えてください!
それではまた!!
2020/3/31追記
通達が出ました。
「もっとも,配偶者居住権が配偶者居住権者の死亡によって消滅した場合には,不登法69条の規定に基づき,登記権利者(居住建物の所有者)は,単独で当該配偶者居住権の登記の抹消を申請することができる」
(令和2年3月30日法務省民二324号通達,8頁」