東京の先輩司法書士から,また質問が来ました。

「再転相続って知ってるかい?」

 

事案はこうです。

 

 

まずAが死亡し,Cが相続の承認・放棄をする前に

相次ぎ死亡したという事案。

DとEは,Aの相続につき,再転相続人として

相続放棄をしました(Cの相続については放棄していません)

この場合,被相続人Aの相続人は誰ですか?

っていう問題。

 

GがAの相続債権者から請求を受けたので,家裁に問い合わせたところ

このケースで現在相続人はB(とF)なので

Gは相続放棄はできませんとの回答だったとのこと。

 

で,その旨を相続債権者である金融機関に伝えたところ

当社は相続人はG(とF)だと考えているから

Gへの請求はやめませんとのことだったとのこと。

そこで,Gから相談を受けている先輩司法書士から

私に困ったと相談がきたというわけです。

 

何年か前に,再転相続については,かなり調べたことがありました。

そのときは,上記のような事例で,相続債権者がBに訴訟を提起した

という事案でした。

(実際は本件よりもかなり複雑な事例でしたが,骨子は同じ)

 

まずはいつものとおり,条文からみてみましょう。

条文

第九百十六条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは,前条第一項の期間は,その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

民法は,再転相続について,熟慮期間の起算点の特則を定めているだけで,

再転相続における承認・放棄の効果については,何も定めていないので

(民法939条,889条などの)解釈論により導き出すしかないことになります。

再転相続の承認・放棄の性質論(承継説と固有説)

「相続の承認・放棄の実務」94頁以下(新日本法規出版)

によれば,

 

承継説

再転相続人は,再転被相続人の有する承認・放棄する権利を承継するという見解。

 

固有説

承認・放棄の権利は一身専属権であって承継せず,再転被相続人の死亡により再転被相続人の有する承認・放棄する権利は消滅し,民法916条は,再転相続人に独自の権利として,承認・放棄する権利を与えたという見解。

※再転被相続人は本件のCを指し,再転相続人はDとEを指します。

 

本件の相続債権者の考え方

相続債権者はおそらく承継説的な発想だと思います。

DEはCの代弁をしているのだから,DEが放棄をしたことにより

Cが相続放棄をしたのと同じ効果が生じ

Aから見て,第一順位の子Cが放棄したんだから

Aの直系尊属がいない本件では,第三順位の

Aの兄弟Gが相続人となるという考え方だと思われます。

 

本件の家裁の考え方

おそらくこの家裁は,固有説的な見解に立ち,それを敷衍したんだと思います。

つまり,放棄したのはCじゃなくあくまでもDEである。

(子)Eが放棄をしたんだから,(Cから見て)次順位の直系尊属であるBが

相続人になるという考え方だと思われます。

あくまでも放棄の効果はEに生じるのであって,Cが放棄をしたことに

なるわけではないということですね。

 

まあ,解釈論ですから,どっちもあり得るんでしょう。

実際,以前,上記と同様の事例で,Bの相続放棄が受理されたという

実例も耳にしています。

ただ……

個人的には,被相続人Aの相続について,離婚したBが相続人となるという考えには

めちゃくちゃ違和感があります。

なぜなら,Aが死んで数年後にCが死んだという普通の事例の場合

Cが承認しようが放棄しようが,離婚した配偶者Bに相続権がいくことは

ないんですよね。

なのに,たまたま,3か月以内に相次いで死んだだけで

Bが相続人になる事態が生じ得るという結果は

あまりにバランスを欠くと思うからです。

(DEが被相続人Cについて放棄すればBにいくこともありますが

 今回はDEは被相続人Cについては放棄していません)

 

前記文献「相続の承認・放棄の実務」の96頁にも

(Aが死んですぐBが死んでCが再転相続人という設定)

「固有説の問題点は,再転相続人Cの承認・放棄する対象は,CのBを通じたAに対する相続であり,代襲相続のような固有の相続権に基 づく相続ではないのであるから,AからBへの承認・放棄が行われる必要があるのではないかということである。 つまり,固有説に立った 再転相続の承認・放棄は,承認・放棄しない未確定状態の相続財産が Bのもとで確定することなくCのもとで確定することになるのであ る。しかし,このように解したとき,Cが再転相続を承認した場合には大きな問題は生じないであろうが,放棄した場合にはAの財産はどうなるのだろうか。Cに帰属しないことだけは確定するが,Bのもとで確定することができなくなってしまうのではないか。 固有説は魅力的ではあるが,この点の解明がなされなければ組みすることはできない」とあります。

おそらく私の問題意識と同じだと思います。

では,どうするか…

今回の事例では,相続債権者の請求がきたから放棄したいと

Gから相談を受けています。

管轄の家裁に聞いたら,相続人じゃないから放棄できないです

って言われたわけですが,家裁がそう言ったからって安心はできませんよね。

実際,相続債権者からGに対し訴訟を起こされた場合

判断するのは地裁又は簡裁の裁判官だから

その裁判官が承継説的な発想をする方だと

被告適格ありとして請求認容されちゃう可能性もあるわけです。

「家裁に聞いてできないって言われたから…」

って訴訟で弁明しても・・・通じないでしょうね。

 

また,「家庭裁判所での相続放棄の受理は一応の公証を意味するに止まるもので,その前提要件である相続の放棄が有効か無効かの権利関係を終局的に確定するものではない」

(東京高判昭27.11.25)

のであるから,見解が両説あるのであれば,家裁としてはGの申述を一応受理しておいて

あとは裁判で解決してくださいってするのが妥当だと思います。

 

したがって,相続債権者が請求を継続すると表明している本件では

Gの放棄の申述をした方が無難だと思います。

却下されるにせよ受理されるにせよ,却下審判書又は受理証明書を相続債権者に

提出すればいいですから。

家裁から相続放棄の申述の取り下げを求められても

取り下げはしない方がいいでしょうね。

相続債権者からGに訴訟が起こされた場合,Gが申述を取り下げてると

取り下げは撤回であり申述したこと自体なかったことになるから

認容判決が出る危険があると思います。

ティータイム

前述のとおり,上記事例と同様の事例で,Bの相続放棄が受理されたのを

他の司法書士から聞いたことがありますし

Bを提訴してきた相続債権者の代理人弁護士の訴状もみたことがありますので

上記事例でBが相続人となると考える実務家が相当数いることは間違いありません。

 

しかし,私が調べた限り,Bが相続人となるという結論を支持する文献は

見たことがありませんし,そういう考え方もあるという言及さえ

みつけることができなかったんですよね。

注釈民法や基本法コンメンタール(日本評論社)にも,いろいろ事例が載っています。

ぴったりくる事例はないのですが,おそらくGが相続人となると考えているんだろうな

と思われる記述はありますが,Bが相続人となると考えているんだろうなと思われる

記述は皆無なんですよね。

固有説に立つ学者さんでも,Bが相続人になるという

結論をよしとする人って,いないんじゃないかなーって個人的には感じてます。

そのくらいBが相続人となるっていう結論は,私にはめちゃくちゃ違和感ありまくりです。

(私が重大な勘違いをしているんだろうか・・・もし,そうならご指摘ください!)

 

この記事が他の実務家の参考になれば幸いです。