こんなニュースがありました。

東京高裁(中西茂裁判長)が7月、「被告側に裁判が起こされたことを伝えないまま裁判を開いたのは違法」として、2007年8月に確定していた民事訴訟の1審判決を取り消していたことがわかった。1審の裁判所が、被告の住所が判明しているにもかかわらず訴状を郵送せず、提訴されたことを掲示板に貼り出す「公示送達」の手続きを経て審理に入っていたことが問題視された。確定判決が10年以上を経て取り消されるのは異例。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20180808-OYT1T50069.html?from=ytop_main1
 

判決が確定しているなら,控訴はできないはずなのに

これってどういうことなんでしょうか?


この点,公示送達の欠缺は再審事由には該当しないという

最高裁判例があり(最判昭57.5.27)

上訴の追完(民訴法97Ⅰ)を認めた最高裁判例もあるようですが(最判昭42.2.24)

近年の下級審判例では,無効な公示送達による判決に対する控訴の申立ては
「原判決については適式な送達がされていないから、

本件控訴は控訴期間が経過する前にされたものと認める」(後記東京高判)

つまり,控訴は期間内で適法という理屈で
原判決を取り消して(民訴法306)原審に差し戻す(民訴法308Ⅰ)

というのが多いようです。

控訴期間が経過していないんであれば,仮に確定証明書なんかが出てたとしても

判決は確定していなかったと考えることになるんでしょう(民訴法116Ⅰ)。

このニュースの事件も,この法律構成だったものと思われます。

【参考判例】
東京高判平21.1.22
札幌高判平25.11.28
名古屋高判平27.730
 

この点,学説だと,無効な公示送達に基づく判決は無効だとして

再送達申請をすればよいとするものもあるようです。

この方が理論的にはスッキリしますが

確定したものとして扱われている一審判決書が残っちゃうので

実務上は,控訴して取り消してもらうというのが多いってことなのかな。

実務をしてると

裁判なんてやってません

とか

裁判所から封筒も受け取ってません

なんてことはよく,ご相談者さんから聞くことがあります。

その大半は,ご相談者さんの記憶にないだけだったりします。

その全部について,訴訟記録を調べるって現実的ではないんですけど

(こうおっしゃるご相談者さんは,当然判決書をもってないので

   裁判所から取り寄せなければなりません)

中にはこんな事案も紛れ込んでいるということを

記憶の片隅に置いておこうと思いました。