週末の研修会で,ある司法書士から

成年被後見人は障害者控除を受けることができます

との情報提供がありました。

 

早速調べてみると,

「民法に定める『精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者』は,所得税法に定める『精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者』に該当すると考えられます。」

https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/bunshokaito/shotoku/120831/01.htm

 

との名古屋国税局の回答が見つかりました。

(おぉ!これ使えそうじゃん!)

 

この回答はちょっと一般の方にはわかりにくいかもしれませんが,

民法は,「精神上の…常況にある者」は,後見開始の審判があると,

成年被後見人になると定めてます(民法7条,8条)。

 

つまり,成年被後見人であれば

家庭裁判所が「精神上の…常況にある者」だと(過去に)認めている。

「精神上の…常況にある者」は所得税法上の「特別障害者」である。

「特別障害者」は障害者控除を受けることができる(所得税法79条1項2項3項)。

したがって,成年被後見人は障害者控除を受けることができる

というロジックなんですね。

 

これを記号論理学風に書くと

 

  成年被後見人→「精神上の…常況にある者」

  「精神上の…常況にある者」→「特別障害者」

  「特別障害者」→障害者控除を受けられる

 ゆえに

   成年被後見人→障害者控除を受けられる

ということになります。

 

ただ,「(過去に)」と書いたのは,実は,

成年被後見人→「精神上の…常況にある者」

の前提は,正しくない場合がありまして,

裁判所が認めたのは審判をした時点(過去)なんですよね。

なので,例えば能力が回復したような場合には,

成年被後見人でも「精神上の…常況にある者」でない

ということはあり得ます。

なお,能力回復した場合には,本人や関係者の請求により

家庭裁判所は後見開始の審判を取り消さなければならない

とされていますが(民法10条)

請求がない限り家裁は親切に取り消してなんてくれませんので

現時点で成年被後見人であっても

「精神上の…常況にある者」に該当しないことがあり得るわけです。

とはいえ,能力回復等がない限りは,上記ロジックでよいということになります。

 

また,ちょっと気になるのは,上記国税局回答に

鑑定結果に基づき…審判をした場合には」とある点です。

最近は鑑定は行われないことが多く

(実際私は数十件申立てしてますが,一度も鑑定を行われたことがありません)

鑑定が行われていない場合にはダメなのか?

ただ,この回答には「登記事項証明書」により確認することできます

とあり,登記事項証明書には鑑定の有無は載りませんので

鑑定がなされていなくても,たぶん実務上大丈夫なんじゃないかなーと

個人的には考えています。

 

相続税と市県民税はどうなの?

相続税法は,障害者と特別障害者の定義について

所得税法施行令10条1項2項の各号を援用してますし

(相続税法施行令4条の4第1項2項)

市県民税は,地方税法の定義の文言が所得税法と一緒なので

(地方税法施行令7条,7条の15の7)

相続税と市県民税についても,成年被後見人は

特別障害者にあたると考えてよいと思われます。

 

税理士さんにも確認してみた

実は,研修会を終えて,私の受けている後見案件で気になる方がいたので

資料を見返したところ,成年被後見人なのに障害者控除を使わずに

私が成年後見人として相続税の申告をしていた人を発見しました。

(マズイ。これは更正請求しないと。5年経過してなくてよかった。)

研修会で出席者全員にこの情報を注意喚起してくださった

先輩司法書士に感謝です!

 

ただ,相続開始して5か月経過後に後見開始の審判を受けているので

相続開始時(被相続人死亡時)に成年被後見人じゃなかった点が大丈夫なのかについて

その申告の代理人をしていただいた税理士さんに確認しております。

その辺の結果がでましたら,所得税法,相続税法,地方税法の

障害者控除の条文整理をアップしたいと思います。

税法ってまさに迷路で,結局調査に半日かかっちゃいました。

(2018/9/6追記。結果アップしました。記事へ