環八から、左折した途端に 左下に向かって始まるジェットコースター
息巻いているプリウスか何かを、インから抜き去りながら
「すっこんでろ」と背中で言い放つ
視界いっぱいに “ 世界 ” は開け
両腕を広げて「ようこそ」と、俺を迎え入れる
SPORTSモードに切り替え、アクセルを開けて加速し、リミットの6500を一度 感覚で確認する
第三京浜は数年ぶりだったが
まるで昨日の事のように、見知ったデカいS字が向こうから飛んで来るのが見えた
「♪」
ニヤリと笑いながら、子供のように胸を踊らせ
一旦、わざとアウトに跳んでから 一気に倒し込み
大きな3車線を目一杯に使って、マシンを射出角度に
(行け)
流れるアスファルトは、一気に奔流に
日常を突き破り、空気は猛々しく唸り
全ては霞んで、背中越しに見えなくなる
全開で160~170
慣らしが終わっても、今度は国内仕様のリミッターがある
最終的な最高速度や、馬力の事は 何も調べていないが、 何の不満も無い
今までとは違う 不思議な感覚
何かに飢えたり、それに追い立てられる
いつものヤツとは違う
まばらな車達の間を、泳ぐように縫いながら
静かで鋭い高速飛行が、何処までも続いて行く
ただ走る事、純粋にそれが楽しかった
保土ヶ谷の料金所を抜け、横浜新道へ
ここは急に狭くなって 路面も悪く
なかなかのキツさのカーブな為、毎回必ず不安になる
( 結局、変わらなかったな )
『HIGHWAY MAGICIAN』のモデルになったオヤジの顔が浮かぶ
このルートで思い出すのは、決まってあの人だ
とぼけた茨城弁で、バイクのセオリーを無視した持論を話す
そして、それを実際にやってしまうから 誰も文句は付けられない
砕け散った、ZZ-Rのミラー
高速道路で本気出して、追うのを諦めたのは
後にも先にもあの人だけだ
カトーも 新湘南の最後の超高速コーナーで、「 R6で270出てるのに、GPXにブラックマーク残しながらチギられました」って笑ってたっけ
下道で134号に抜けて 海岸線を走るルートは、キーコに教えてもらった
西湘バイパスで、ジワジワスピードを上げて 最終的に置いて行かれたのはR750のヒロさんだ
あの頃は国府津って名前だったなと思いながら
西湘パーキングに入る
水平線の向こうに、朝日が顔を出していた
パーキングの中は、既にバイクと車でごった返している
エランやスーパー7も、休みの朝にこの辺まで来れば珍しくも無く
10台以上のBMWのツーリング集団を眺めながら、煙草に火を点ける
( ビーエムも、増えたよなぁ)
本当に、良く見かけるようになった
渋いオッサンしか乗らないもんだと思ってたのが
今や、S1000RRを女子大生が乗る時代だ
西の空には箱根の山が
黒黒とした重厚なシルエットを横たえている
聖地巡礼のスタート地点は、やっぱり海老名じゃなくてココだと思う
厚木回りでは、この気持ち良さは味わえない
俺のバイクですら
ここまで来てしまうと、そうは珍しがられない
缶コーヒーを飲みながら
モトさんにメールを入れる
「これから、上がります。 一応 みんな揃ったらメール下さい」
俺が幹事だ
にも関わらず、もう あと5分で待ち合わせの時間になる
俺は、わざと遅れて行くつもりだった
みんなを驚かす為に
まだ、ウッちゃんとモトさんぐらいしか
俺がバイクを買い換えたのは知らないのだ
西湘バイパスの終わりが見えた
左右に分岐するのを、早川方面へ
そして
これだけ来ていても、一度も行かなかった方へと曲がる
「さて。」
箱根ターンパイク
登るのは、初めてだった
(続