(降ったのか)
「お疲れでした」と、WRのセルを回して数分後
アンダーパスを2つくぐって、飛び出した高速の下で
路面が鈍色にライトを反射した
抜けの悪い天井付きの幹線道路
立ち昇る湿気と、心地良い秋の気配に身を任せながら
帰宅の途につくトラックやバンの合間を抜い
絶妙な手応えで回るグリップを 前に後ろに捻りながら
タクトを振るように、黒いガラガラ蛇が紅く輝くテールの尾を引いて行く
およそ、こういうシチュエーションにおいて
WRに勝てるマシンは居ない
刻々と変わる、流れの速さを
呆けた仕事上がりの脳みそで、適当に縫い上げて行く
だが、スピードは激辛だ
免許センターのCRTだかなんだかで
「反応と判断速度が速過ぎる。 集中力が散漫になる危険アリ」
とかなんとか書かれるのは、もう20年近いお決まりの文句だ
目の前の何がどう動こうが、それは俺のリズムに“溜め”や“抜き”を作るだけ
そして、その空白を 一撃で埋めるのが
WRの真骨頂なのだ
もう、半分 寝てるような
覚醒度20%ぐらいのトランス状態で、 詰まり気味の車間を流していると
ミラーに小さな光点が揺らめく
(・・・だからぁ)
流してる俺の後ろを、いつものように何かが追い掛けて来る
この道路は、血の気の多いのばかりだ
信号で停まると、すぐ横にデカいスクーターが 耳障りな音を上げて並んだ
コチラを凝視する
信号が黄色から赤に
飛び出す
隣りが だ
青になるのを確認してから
スッと、WRの前輪が停止線を跨ぐ
2速
3
4
空気が歪む
みるみる迫るテール
400だか600だか知らないが、コチラからしたら鈍牛でしかない
右に左に動く前走車達の流れを綺麗に読めない黒いデカ尻が、 俺の前で往生際の悪いテールランプを右に左に振る
5まで上がっていたギアを、2つ叩き落とす
右に来るだろうなと思っていたトラックのウインカーが光った瞬間には
俺はもう左から前に出ている
あっという間にミラーの中で小さくなる光
だが
黄色になった信号を見て、アクセルを抜く
只の通勤だ、無理はしない
数秒後に
再び並ぶ2台
(まだやる?)
ソイツはもう
俺が発進するまで
アクセルを開けようとはしなかった
