残り時間は、10分程度だったらしい
彫像のように重く固まった体で パイプ椅子に寄りかかったまま
S字を切り返して立ち上がって行くバイクを眺め
痺れと痛みの増して来た右手を
グローブをしたままで開いて握ってを繰り返す
(折れてはいないかな)
ヒビぐらいは入っているかも知れないが、他は問題も無さそうだ
冷たい雨がツナギに染み込んで行くのも構わずに
ボンヤリと思考を泳がせる
今、俺がバイクに跨らずに ココに居る事
目の前をたくさんのマシンが「我 関せず」と、走り抜けて行く事
皆は、どうしているのか
俺がコケて、ここにいるのは確認出来たのか
失敗だったのか?
コレで良かったのか?
完走して、ライダーは勿論
手伝ってくれた皆と喜ぶ事が 1番大事だったのか
だが
そんな事は無い と
何がどうなっても
それだけは 揺らがなかった
俺にとっては
今日で最後じゃないんだ
「・・・ああ
ワイヤーか」
左手のグリップ
スイッチボックスの無いレース仕様で
末端をハンドルバーにワイヤーロックしてあった筈なのだが
ちょうどその辺りが、千切れて一部無くなっていた
左だから
俺か、ウッちゃんがコケた時だろう
そりゃあ、あの空気の中で見落とされていても 何の不思議も無い
デカい授業料だな
上げたシールドを伝って、ポロポロと水滴が落ちる
緊張感と車体が発する熱で、それでも高かった体温が
ゆっくりゆっくり奪われて行く
静かだった
さっきまで、爆撃のような音と流れに包まれていたのに
ふと気が付くと、オフィシャルが こちらに走って来た1台に手を振っていた
旗を持ったライダーが、そのまま上に掲げて応える
「終わった か」
深く息を吐いて、見つめる
R1の現行車だった
そして、次々に走り去るバイク達
ほんの小さな差
その積み重ね
決定的だった
ココから見送ると云う事が
悲しくも
辛くも
寂しくも無い
ただ
ココに居る事を、ヨシとしない自分が居た
生まれて初めて乗った"ドナドナ"は
ただ、ひたすらに 寒かった
(続
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