中火で熱して、そのまま空焼きしたフライパンのようだった
( あと、何分なんだ)
詰めて 詰めて 詰めたその先で
段々、蓄積した疲労と 寒さと時間が 肩に伸し掛かり始める
ホームストレートの電光掲示板の事をすっかり忘れていた俺は
曇りと雨粒でサインボードすら見れずに、1人で走り続ける孤独で 色んな物が麻痺し始めていた
繰り返す、コーナーでの集中
別に、全力で走っているからと言って コケてもイイような事はやっていない
数周の後に、前に誰もいなくなり
長い長い1人旅が始まった
ひたすらに、路面とマシンとの
禅問答のような
常に周りを流れ続ける流体に、体が慣れ
一切の無駄を省いた、思考と条件反射の果て
理屈を越えた先で
それでも、走る事を止めようとしない
これぐらいなら開けても
この辺まで寝かせても
行けるのか?
行けた
次は?
抜かれた
飛沫の道を穿ちながら、水の煙の向こうに向かって
奈落の底に落ちるかのように、バックストレートを駆け下って行く
( あんなにインから?)
見えない
減速の感覚が、全く分からない
だが、機影は曲がって行く
綺麗に荷重をかけて、後輪を押し付けて
流麗な一連の動作で
あんな風に走りたい
無骨で愚直な実戦
もう少し頑張ろう
そんな繰り返しで
せめて、タイムを知りたかった
自分の中の物差しが無い事は、上がっている実感を全く感じさせてくれない
ただひたすらに
アクセルを、開けては戻し
手探るように 水の中を切り裂いて
股の下の感触を確かめながら、道の先の先の先を睨み続ける
3コーナーからの4への繋ぎ
更に速度を乗せてみる
行けた
張ったGが、S字への確かな足掛かりを
"切返しの速度を上げたい"
上体を起こし気味に
軽く手でコジッて
「あ・・・?」
気が付いた時は、空中に居た
棒切れのように、縦に回り
まずは右手の掌
背中
腰
全身がグラベルの上を 削るように
革の向こうで、濡れた砂利と土の不快な感触が全身を舐め回す
かなりの距離を滑走し、ボロ雑巾のように転がって停まる
一瞬 息が止まる
気力だけで起き上がって
数メートル先で横倒しになったR1
重い体をむしり取るように駆け寄る
起こせない
グラベルで踏ん張りが効かない
手足も、驚くほど疲労している
すぐ近くにいた、オフィシャルが駆け付け
「大丈夫ですか?」と、手伝ってくれる
起きた
かかれ
「マジかよ・・・」
右手で支え、前後に動かしながら
左手でシフトを上下してニュートラルへ
そのまま、手伝ってもらって
タイヤバリヤの脇まで運び、立て掛ける
「もうちょっとで終わりますから、ここに座っててください」と、雨に濡れたパイプ椅子をすすめてくれた
俺は、全身の力を抜いて座り
フルフェイスを取ろうか迷って、結局そのまま
上げたスクリーンから滴る雨を、ボンヤリと眺めた
R1は、クラッチレバーが折れて無くなっていた
俺は、ふと
切り返しでいきなりすっぽ抜けた、左のグリップのゴムを
左手でずっと握りしめていたのに、気が付いた
(続
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