三郷を降りて15分程走ると
まばらな住宅と農地の間に くすんだ古いコンクリートの倉庫が見えてきた
忘れ去られたようにひび割れた駐車場へR6を停め
大型トラックの荷台に合わせた高さの床へ這い上がると
1mほど上がったままのシャッターの中から 大音量のギターリフと灯りとオイルの匂いが漏れ出していた
綺麗に組まれた単管に、工事用の投光器が強烈な光を放ち
数台のバイクが置かれた奥で、古い事務机に向かって座った男が エンジンのポートをリューターで削っていた
「コブ」
ハットにボウラーシャツ
黒縁のメガネの二十代とおぼしき顔がこちらを振り向く
「おう、どした? ロッソコルサならまだだぞ」
「昨日 会えた」
眼鏡の奥で、大きめの瞳が これでもかと見開かれた
「“キング”にか?」
「ううん 多分“DOLL”の方。赤いCBRの900だったよね?」
「エヴォリューション=ブレードな。フロント16インチの
凄いな 探して会えるもんでも無いのに
ついて行けたのか?」
「無理だった。
でも、凄いね
バイクって」
コブと呼ばれた青年は、伸ばした薄い顎髭をかきながらkoolをくわえ
複雑そうに鼻を鳴らしながら、Zippoを「チン」と開けた
紫煙が、巨大な空間に広がる
「コース(サーキット)で、どーのこーのって話じゃないからな・・・
勝てるまで頑張れとも、言えないし
トウコの気持ちは、分かってるけど」
「大きいサーキットに行きたい」
筑波でのベストが8秒
レース未経験の、ほぼノーマルのバイクでの練習走行としては決して悪くは無いタイムだ
コブは、この2年間
敢えてトウコのR6に手をくわえなかった
マフラーとブレーキパッド
それで
“ある状態”から何も換えずに、慣れる事が本当は一番良いからだ
1つの事を突き詰めるならば
定点から、様々な状況を体験する方が
だが
「分かった。 今日は送ってやるから、R6置いてけ」
(忙しくなるな)
コブは、アルミの灰皿で煙草をもみ消すと
卓上のPCを起動した
(続