「今晩は」
信号が変わるのを待っていたワタシの前に
凶暴さと紳士さを合わせ持った音の尾を引き
その2輪車は停止した
何故話しかけたのか、未だに分からない
漠然とした先の見えない
当たり前の何かが、蟠っていたのは事実だ
ヘルメットのバイザーが上がり、こちらを鳶色の瞳が射抜く
その強さと鋭さに、違う世界の禁忌のような物を感じて 心が退く
「何か?(笑)」
第一印象よりも、ずっと柔らかい声に 幾分か凍えが解け
ワタシは堰を切ったように、詫びと謝辞と興味本位の質問をぶつけてしまった
水面のように美しいカウルが、水銀灯の光を夜気に反射させ
鉄と油の匂いを纏って鳴動するエンジンが、余計な言葉を言わせない音と説得力でワタシの5感を釘付けにする
それは
生温い春先の 滞留して混ざり合わない気怠さや、自分が立っている“社会”の概念のような物を決して寄せ付けない、堂々とした存在感だった
左足の爪先が軽く動くと
「ガチャリ」と音がして、車体が身震いした
「じゃあ」
何かが「発生」した
無色無臭のそれは、一瞬で右手からエンジンを介して後輪・アスファルトへと伝わり
吹き飛ばすような音と共に、後ろ脚を撓ませて離陸する
スローモーションのように、数メートル
そして、一瞬で赤い光が薄闇の向こうへと飛び去る
夢だったのか と
それは
深い
夜明け前のような蒼だった
trackbacked from 「迷走Riderの眠れぬ日々」
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