Midnight Klaxon Baby | すかいうぉーかー

すかいうぉーかー

CRAZY=SPELL−BOUND











すかいうぉーかー-ファイル004300020001.jpg








北向きの寝室のドアを開けて出ると、ダイニングの僅かな暖かさに包まれた



よく回らない頭で、部屋着を脱ぎ捨て
ソファの上に放り出してあった、グレーのカーゴパンツに手を伸ばす


くわえ煙草のままメットをひっつかみ、鍵も閉めずに外へ出ると

締め付けるような冷気が夜を凍らせていた




「マジかよ」



ウズミは煙草を投げ捨てると、RMXのシートの上に10cm近く積もった雪をゴソリと手で払った

ウールのマフラーを襟元に押し込みチョークを引く
ジャラリとウォレットチェーンを鳴らしてステップの上に足を載せ
右足を宙に舞わすと、そのままキックを叩き落とした


夜中の歌舞伎町に、巨大な蜂の羽音があがる

どうせ、近所の住人は“出勤”中だ


数回ブリップしてツキを確かめると 乱暴にクラッチを繋ぐ


みぞれ状の雪を飛び散らせて、リヤタイヤがズルリと横に流れ

一瞬の間を置いて、ブロックが黒光りするアスファルトに噛みつく



軽くカウンターを当てながら、更にアクセルを開け
職安通りから靖国へ飛び出した

ポップキャンディのような光が、dragonのゴーグルに映り込む

終電が無くなり、更に深く眩しい夜へと新宿が沈んで行く



タクシーが合図も無しに前へ割り込む


ダナーのブーツでブレーキペダルを乱暴に踏み込み、リヤを左に流して アクセルを開け、泥と油で真っ黒になった雪を吹きかける


抜きざま、鳴らされたクラクションに返事をするかのように、右のドアミラーを蹴り割り

市ヶ谷の手前を右へ



赤色灯を回したクラウンが1台ポツンと停まっていた
横で酔っ払いと話をしている警官が、一瞬コチラを見る



緩やかな登りのカーブを、RMXが全開で立ち上がる

凍結した女神湖の氷上に比べたら、スリップなどしないに等しい




ハンズフリーに着信




「モシモシ」



「今何処?」



「四谷過ぎた」





「急いで。対象がそろそろ店を出るわ」




「麻布十番だろ?間に合わねーよ」




「5分ぐらいなら何とかするわよ。信号無視でも何でもして来なさい」






ブツリ






ため息で、ゴーグルが軽く曇る

微かな雪混じりの冷気が、全身を叩く



夜と水と氷の世界





S字を描くように、トラックとタクシーを一息で抜き
赤に変わったばかりの交差点に向かって、オーバースピードからフロントを握り 一気にギアを2つ蹴り降ろす

カウンターを当てながら、ハンドルバー越しに横断歩道の歩行者をチェックし
ラインを調整しながら



路面を引きちぎるような加速


次の信号が一瞬で眼前に迫る





「・・・チッ」




交差点の真ん中で、2台の車が停まっていた
運転手が降りて何か言い合いになっている


ブリップの爆撃音が2回


ウズミはRMXにヒステリックな絶叫をあげさせて減速すると

ステップの上に立ち
軽く前傾して、ハンドルバーに体重をかけた


突然鳴り響いたスキール音に、運転手達がギョッとしてウズミを見る

グシャグシャの雪を巻き上げながら、ゆっくりとリヤを降り出したRMXが 前輪を軸に2台の周りで綺麗に弧を描き
人1人分しか無さそうな隙間から、高々とフロントを蹴り上げて飛び出した



呆気にとられる運転手と通行人を尻目に、後付けのテールランプが赤い尾を引いて走り去る










「これで、間に合わなかったら・・・」




















「ラーメン食いに行くか」





それも、いいなと思いながら

ウズミは、無機質に流れる夜の奥へと意識を戻した