蓑虫のように くるまったまま、細く微かに意識が覚醒した
くたびれた脂の匂いの毛布の中で、頭を動かして薄暗い部屋の中を見渡し
自分の煙草と、見慣れない景色の確認をする
霞がかかったままに煙草に手を伸ばし、オレンジの光点を作ると
カサついた喉に煙を飲み込んで、大量に吐き出す
炬燵の反対側でライオンが寝ている
百獣の王じゃない
本名が“頼音”なのだ
「・・・」
もう一度煙を吐き出した所で、違和感に気付く
脇のカーテンを開けると、アパートの前のだだっ広い、何も無い駐車場
「おいおい」
ライオンが起きた気配
そして、駐車場には“何も”無かった
これと言って特徴の無い田舎町だった
男は髭ヅラで、女は茶髪
老人は自分の足で歩き、大型スーパーが小さな布団屋を潰す
錆びた出光のスタンドで「ハイオク」と言うと、つまらなそうにコッチを見られる
ライオンのビビッドピンクのサニトラの助手席は、安い香水の匂いが残っていた
デカい倉庫だった
食品会社の名前の入った搬出用のプラスチックの箱が、隅に放置されている
明らかに盗品のスクーターやネイキッドが数百台
「じゃあ、CBRは無いんだな?」
「すいません。俺らの方には回って来てないっす。ライオンくんの友達のバイクなんかヤッたら、ナカガワさんに殺されちゃいます。」
「1000RRの白っすね? こっちでも捜してみます」
頬杖で空の向こうの南アルプスを眺める
(家から500kmも離れた町で、何してんや俺は)と心の中で呟く
ラジオからはファズの効いたリフが流れ
乳母車のようなカートを押した老婆が、目の前を通り過ぎる
誰もいない
だが、国道沿いのアパートに 一晩CBRを停めたのは自分だ
何かもう、どうでもよくなって来ていた
元々、適当に決めて適当に始めた旅だからなのか
だが、足が無い事には身動きも取れない
「ここだね」
白いペンキの剥がれた外壁
腐食に覆われたアルミのサッシ
屋上付近に「3-32」と書いてある
公団のようだったが、人が住んでいる気配が無い
錆びたドラム缶に、炭火した垂木やバタ角の燃えさしが残っている
「ホンダの出稼ぎ外国人の寮だったんだ。ブラジル人は日本人の100倍は勤勉だよ」
車から降りると、ライオンが荷台からデカいバールを出して来た
ズシリと重い
「勤勉じゃないのも居るのは、この国と変わらないからね」
ダイゴは溜め息を1つ吐くと、バールを肩に担いで歩き出した
