それではみなさん、よい旅を | すかいうぉーかー

すかいうぉーかー

CRAZY=SPELL−BOUND

すかいうぉーかー-PAP_0035.jpg







蓑虫のように くるまったまま、細く微かに意識が覚醒した

くたびれた脂の匂いの毛布の中で、頭を動かして薄暗い部屋の中を見渡し
自分の煙草と、見慣れない景色の確認をする



霞がかかったままに煙草に手を伸ばし、オレンジの光点を作ると
カサついた喉に煙を飲み込んで、大量に吐き出す





炬燵の反対側でライオンが寝ている

百獣の王じゃない
本名が“頼音”なのだ








「・・・」






もう一度煙を吐き出した所で、違和感に気付く


脇のカーテンを開けると、アパートの前のだだっ広い、何も無い駐車場







「おいおい」






ライオンが起きた気配


そして、駐車場には“何も”無かった












これと言って特徴の無い田舎町だった


男は髭ヅラで、女は茶髪


老人は自分の足で歩き、大型スーパーが小さな布団屋を潰す



錆びた出光のスタンドで「ハイオク」と言うと、つまらなそうにコッチを見られる







ライオンのビビッドピンクのサニトラの助手席は、安い香水の匂いが残っていた







デカい倉庫だった
食品会社の名前の入った搬出用のプラスチックの箱が、隅に放置されている

明らかに盗品のスクーターやネイキッドが数百台



「じゃあ、CBRは無いんだな?」


「すいません。俺らの方には回って来てないっす。ライオンくんの友達のバイクなんかヤッたら、ナカガワさんに殺されちゃいます。」


「1000RRの白っすね? こっちでも捜してみます」













頬杖で空の向こうの南アルプスを眺める
(家から500kmも離れた町で、何してんや俺は)と心の中で呟く



ラジオからはファズの効いたリフが流れ
乳母車のようなカートを押した老婆が、目の前を通り過ぎる

誰もいない

だが、国道沿いのアパートに 一晩CBRを停めたのは自分だ





何かもう、どうでもよくなって来ていた

元々、適当に決めて適当に始めた旅だからなのか



だが、足が無い事には身動きも取れない









「ここだね」



白いペンキの剥がれた外壁

腐食に覆われたアルミのサッシ

屋上付近に「3-32」と書いてある





公団のようだったが、人が住んでいる気配が無い

錆びたドラム缶に、炭火した垂木やバタ角の燃えさしが残っている




「ホンダの出稼ぎ外国人の寮だったんだ。ブラジル人は日本人の100倍は勤勉だよ」







車から降りると、ライオンが荷台からデカいバールを出して来た
ズシリと重い





「勤勉じゃないのも居るのは、この国と変わらないからね」













ダイゴは溜め息を1つ吐くと、バールを肩に担いで歩き出した