前回米国の住宅ローンは正確にはノンリコースではない書いた。そこで断っておきますがが、ここではノンリコースの良し悪しを議論するつもりはない。あくまで事実を認識して、その上で議論すべきだという趣旨なので誤解のないようにお願いします。

それでは「ノンリコースではないが、実質的にノンリコースの扱いを受けている」というのは、どういう意味なのだろうか?

ある人が金融機関からの住宅ローンを借り、残高(未払金利などを含むと仮定)が2000万円だとする。住宅ローンが支払えなくなり、対象の住宅を売却して1500万円(経費などの控除後)を返済したとする。すると債務者は、残りの500万円の残債務を金融機関に支払う必要がある。

日本であれば、この金額を一生かけてこつこつ返済しなければならない。しかし米国ではこの500万円を支払わなくて済む場合が多いのである。

それは米国では金融機関がこの債務を免除することが一般的だからである。金融機関からの債務免除によって、債務者は残債務の支払いが不要となり、実質的にノンリコースであった場合と同じ効果が得られる。これが米国の住宅ローンがノンリコースと言われる理由である。

金融機関が残債務を免除する理由は以下の二つである。第一は州の法律により残債務の免除などが要求されるため。第二は金融機関の自主的な判断。

第一の理由は州が法律によって金融機関による残債務の請求を実質的に禁じるというものだ。米国は州の自治権が強く、抵当権の実行に関しては、州法によって規定されている。この州法において、残債務の請求を禁じる州があり、その手法は大きく分けて二つある。

第一の手法は住宅ローンについて金融機関が抵当権を実行した場合、残債務の請求を禁じるもの。一般のにアンチ・ディフィシェンシー・ルール(Antideficiency Rule)と呼ばれる。下記はカリフォルニア州の該当する法令。
http://law.onecle.com/california/civil-procedure/580.html

第二の手法は住宅ローンの債務不履行が起きた際に、金融機関の選択肢を一つに制限するもの。一般にワン・アクション・ルール(One Action Rule)と呼ばれる。これは、債務不履行が起きた際に、例えば金融機関が抵当権の実行を選択すると、それ以外の残債務の請求といった法律行為を起こすことを禁じるという法律である。下記はカリフォルニア州の該当する法令。
http://law.onecle.com/california/civil-procedure/726.html

>州によってはこれらの法律が両方適用される場合もある。これはワン・アクション・ルールは、そもそもの趣旨として、金融機関が多数の訴訟を断続的に提起することで債務者に圧力をかけるような行為を防止することに目的があるらしい。そのため州によって、あるいは債務の内容によってはこの当初の目的を主にワン・アクション・ルールを規定している場合があり、ノンリコースに必ずしもならない場合がある。また訴訟の提起を選択すると、全債務の請求が可能で抵当権の実行と残債務の請求が両方可能な場合もある。

しかし最も重要なポイントは、こうした規制を設けてる州は少数派であるということだ。カリフォルニア州など西部諸州にこうした規制が多いのが特徴と言えよう。最近のリッチモンド連銀の調査レポートによると、こうしたノンリコースと呼べる制度を採用している州は、実質で11州に限定されるという。
http://morris.marginalq.com/UWFRB_2009fall_files/FRB%20Richmond%20Working%20Paper.pdf
調査元のデータがやや古いようだが、要はこうした規定がある州は少数派だと言うことです。これ以外の大半の州では、法律上は住宅ローンにこうしたルールが存在していない。つまりリコースであることが一般的なのだ。

またこうしたノンリコースの制度は全ての住宅に適用される訳ではない。適用対象となるための条件は州によって異なる。例えば下記はアリゾナ州のアンチ・ディフィシェンシー・ルールを定めた州法だが、こちらは土地の広さと使途によってアンチ・ディフィシェンシー・ルールが適用除外になる。
http://www.azleg.state.az.us/ars/33/00729.htm
http://www.azleg.state.az.us/ars/33/00814.htm
これは個人用の住宅の概念から逸脱するような大邸宅などは保護が不要という考え方かと思われる。

現在の米国での大きな問題となっているポイントとしては、こうしたルールがあっても適用除外で適用されない債務者が多いということである。一例を挙げると、住宅を新規に取得する時に借りたローンに限定されることが多く、借り換えをした場合にはこれが含まれないことが一般的であることとかだ。しかしバブルの時期に米国の家庭は積極的にリファイナンスをした。例えば2000万円で購入した住宅で1500万円の住宅ローンを受ければLTVは75%になる。その後不動産価格の上昇で価格が3000万円になればLTVが75%で2250万のローンが受けられる。そこで別の金融機関から2250万円のローンに借り換え、差額の750万円を消費に充当することが一般的に行われていた。

あるいはホーム・エクイティ・ローン(HEL)やその変形であるホーム・エクイティ・ローン・オブ・クレジット(HELOC)も対象に含まれていない。HELとはこんなローンだ。住宅ローンの返済が進む、あるいは住宅価格が上昇すると、住宅ローンのLTV(担保掛目)は低下する。前と同じ例で2000万円で購入した住宅で1500万円の住宅ローンを受ければLTVは75%になる。しかし返済が進んで残高が1000万円になればLTVが50%になる。そこで劣後抵当でLTV75%までまた500万円貸すというのがHELである。HELOCとは同じような状況の時に、500万円という枠を設けて、その範囲でいつでも借入れできるという与信枠を設定することを言う。そしてこうした融資は、融資残高が減っていなくても、住宅の価値が例えば2667万に上昇すれば同じようにLTV75%で500万円の融資ができる訳だ。

こうして得たお金でアメリカの消費が支えられていたということなのだ。

(注) 上記の例における75%という数字は筆者が適当に選んだ数字であり、この数字で実際に提供された訳ではなりません。

すみません、まだ続きます。

2010年5月一部追記