妄想と現実と仮想
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無題

短い冬も過ぎた。


もう春の日差しが見て取れる。


そんな中、僕はなにかを探していた。


高校卒業になって僕は何をしたいのか。きっと誰もがぶち当たる、人生の命題に直面していた。迷っても何も解らず、見つからず。親にはとりあえず大学に行けと言われた。大学も受かって一息つきたいのに、そんな難題から僕は目をそらせなかった。


扉を開けると一人の男性が座っていた。


「君が今日のお客さんだね?名前は?」


顎鬚の生えた渋い感じの中年男性。


「斉藤 真です」


そう言って、促されて椅子に座る。


「何を迷ってるんだい?」


「やりたいことが無いんです」


少し目を細めて僕の顔を見る。


「そうは見えないんだけど?」


見透かされた。


「見つかってるんだけど、行動に移せないって感じかな?」


見透かされた。


「・・・・・雪が見たいんです。四月に降る」


「だったら北海道にでも行くことだ。運が良けりゃ見られるさ」


僕は首をふる。


「違うんです。この都会で、四月に降る雪が見たい。正確には、雪に咲く桜が見たい」


「また難儀だね。それは・・・・・」


「僕はきっとスイッチが入るのを待ってるんです。それできっとスイッチが入る」


「・・・・・無理だから逃げてる・・・・・・って訳でもないみたいだね」


僕は答えない。


「そうだな、願って見ればいいさ」


僕は目をそらさない。


「願えば叶う。成せば成る。成さねば成らぬ。強く願え。それが出来なきゃきっと、お前がやりたいことなんて一生できっこないさ」


僕は目を瞑る。


じっと願う。


目を開ける。


桜の前で僕は手を合わせて祈る。


目を閉じる。


強く願う。強く。


目を開ける。


雪が待っていた。


桜が待っていた。


四月に雪が降って桜が咲いている。


涙が出た。




次の日、僕は髭をそった。


飛行機のチケットをしまって、あらかじめ準備しておいた荷物を持って部屋を出る。


二十と数年の歳月を清算しに僕は歩き出した。


無題

最初に演技をしたのは中学生の時だった。


少し嫌なことがあるだけで鬱になり、周りの全てが敵に見えた。


そして、そんな自分が大嫌いになった。


それは周りにも伝わったようで、僕は何時しか一人だ。





ある日、手首を切った。


死のうと思ったわけではない。


なんとなく。そう。なんとなく、カッターの刃が僕の手首に当てられると、僕はそこで硬直した。


色んな事を考えたはずなのに、一つとしてその時考えたことは頭に残っていない。


軽く、そっと、撫でるように、子供をあやすように、愛しく、赤い線を引く。


赤い線はだんだんと点となり、点は雫となって流れ出す。


手を翳す。


その手はものすごく綺麗だった。





手首にリストバンドを巻いた。


周りが何か言っているようだったけど、気にはならなかった。


手紙を書いた。


怨み、嫉み、弱音。いろんなことを書いた。


血で書かれたそれは、とてもとても新鮮だった。


紙からは血の匂いがする。


それを誰にも見つからないように、誰にも見つけられないように川に流した。






僕は部活をする。


部活の時は誰であろうが、僕を無視しない。


僕という存在が薄れているから。


一生懸命動いて、息を切らして、たまに休んだ。


休みの時に僕に話しかける人間はいなかったけど、それでも、練習の時はアドバイスなんかをくれる人もいた。






ある日、授業を抜け出して屋上に上がる。


空は真っ青でもなく、暗くもなく、雲の隙間から青が覗いていた。


意味もなく縁に立つ。


下を見下ろしていると、飛べそうな気分がしてきた。


泣いていることに気づいて縁から降りた。


涙を拭いて、上を見るとやっぱり空は曖昧だった。







森に入った。


特に考えは無い。


それでも、どこか知らない場所につけそうで楽しかった。


山小屋を見つけて、やっぱり人がいないだろうと思って扉を開いた。


「なんだい?」


扉を開けた先に、おじいさんがいた。怒っている様子ではなくて、とても優しい声だった。


僕は勝手に上がりこんでしまったことを謝った。


彼は僕の手首を見ると、悲しそうな顔をして話し出した。


「坊は死にたいか?死にたくないだろう。坊は自分がわからないだけだ。自分のいる意味とか、そうだろう」


彼は僕の返答を待たずに、一問一答を繰り返す。


「君は戦ったことはあるか?無いだろう。戦いたいと思うか?思わない。それは可能か?不可能だよ」


彼の目は僕の目の奥を見ている。


目がそらせず、そのまましばらく話を聞いていた。


「明日またここに来なさい」


彼は僕の帰り際、そう言って送り出した。


次の日、僕は彼に会いに行った。


彼はいなかったが、扉に一枚の紙が張られていた。


紙には住所が書かれていた。







僕は彼に会いに行った。


黒と白の垂れ幕に、黒い人たちがいっぱいいた。


黒い人たちは一様に或る方向を見ていて、その先には彼がいた。


笑っている写真のしたで、彼は笑っていた。


「あなたは?」


後ろから声がかけられて、ハッとして事情を説明する。


喪主らしき人は何も言わなかったけれど、「どうぞ、お香だけでも」と言って僕を促した。


僕は彼の前にたった。


彼の右手首には大きな傷があった。


首に真新しい傷。顔に数箇所アザが見て取れた。体は白い布に覆われていて解らなかった。


彼は笑っている写真の下で、やっぱり笑っていた。






僕は次の日、壊れた。


ノートに黒を書きなぐる。


その行為に僕自身が笑う。


笑う、嗤う、哂う、わらう。声が先に出て、気持ちがはねだした。自分でも聞いたことの無い声が大声で笑っていた。








壊れたふりをした僕はますます孤立した。


それでも、それでも僕に付き合ってくれる人間はいた。


彼らは冷静な目で僕をみて、演技だと見抜いた上で付き合ってくれた。


僕はそれがとても嫌だったけど、感謝もしていた。


それが嬉しかった。うわべじゃなくて、中を見てくれる人間もいることに救われていた。









高校に入って、僕は性格を変えた。


陽気に振舞い、勉強もそこそこして、部活も真面目にやった。


それこそ自分から率先して何かをしようとはしなかったけれど。


「変わったね」と一部の人間から言われた。


当たり前だった。変えたのだ。


それがいけなかった。


表が裏がある。それは絶対のようで。僕は一人になるとどうしようもなく塞ぎこんだ。


そのまま高校は終わっていく。


悪いこともそれなりにして、いい事もそれなりにして。


バランスを崩さないことに必死だった。









大学に入った。


僕は笑顔を絶やさなかった。


どんな時でも笑っていられるように勤めた。


優しく、明るく。


自分に言い聞かせて、それこそ善人を装った。


善人は強かった。何もしなくても、信頼が得られていく。


それは同時に負担にもなったけれど、それでも僕は善人だった。









ある日、カツアゲに遭った。


僕は彼らのお気に召さなかったようだ。


彼らは僕を切りつけた。


きっと死なないように、軽くだったけれど手首が切れた。


赤い飛沫を見た。


真っ赤に染まる腕。流れる赤。


笑う彼ら。


僕は、気づいてしまった。


笑う。哂う。わらう。


僕は彼らに噛み付いた。


笑いながら噛み千切る。


黒い血の噴水をあびて、僕は彼らを噛み千切った。


叫び声も、泣き声も、怒声も聞こえないくら笑っていた。









十三段目。


右足に神経が集中する。


僕は落ちた。


それでもいい。


暗闇がはれたとき、きっと僕は笑っているのだから。

無題

学校の朝は辛い。


いつもは何てこと無いのだけれど、朝錬のこの時間だけはどうしても、何故か、足が重いのだ。


毎回、自分は運動不足なのではと心配になる。部活で走ってるからそんなことはないのだと思うのだけれど。


教室の入ると、そこには学校には似つかわしくない女がいた。


ギリギリのラインで、諸々の部分が隠れているような服(僕は服とは認めていない)で、窓から外を見ていた。


「あー、やっときたー」


僕を確認すると、抱きついてくる。


「ゴハンー」


何の断りもなく首に噛み付いてきた。鈍い痛みの後に少しの痺れ。血をすわれているとき、僕は一言も喋らない。


この行為はもう一年ぐらい続けている。


「ご馳走様」


女は首から口を離すと、唇を重ねる。これは、最近からのことだ。


唇を重ねる。その行為に抵抗はない。けして深い所まではいかない。軽い重ねるだけ。自分からはけして攻め込まない。


長い長いキスの後、彼女は僕にもたれかかってきた。


「ねぇ、今幸せ?」


僕は黙って頷いた。


女は幸せそうに僕に寄り添っていた。






ある日、女は見えなくなった。


どこを探してもいない。


僕は、毎日を過ごした。授業を受けて、部活に出て、予備校に通った。


友達と喋って、おかしくも無いことで笑って、悲しくも無いことに同情した。


不思議と苦しかった。


押さえつけたように心が潰されそうだった。


押さない時、泣きたいのを我慢していたみたいに、喉の嗚咽を我慢した。


自然と女を捜すけれど、やっぱりどこにも見つからなかった。









僕は大学を卒業した。


そこそこの会社に就職して、そこそこ出世した。


出来る人間だ、と言われたが何も嬉しくは無かった。


いつもの帰り道、暗い路地で女を見つけた。


僕はきっと、気が動転していたのだろう。


彼女の肩を掴んだところで気が付いた。マズいと思ったけれどもう遅かった。僕は痴漢になることを覚悟した。


「きゃッ」


小さな悲鳴。


僕は大きな悲鳴に身構えた。


でもそれは何時までたってもこなかった。


ゆっくりと目を開けると。


そこに彼女がいた。


「ただいま」


僕は彼女を抱きしめた。キスをした。また抱きしめた。


「痛いよ~」


彼女は笑って不平をもらす。


「やっとね、あなたとね、一緒になれた」


彼女は僕に抱きつくと首にキスをした。


痛みも、痺れもなかった。


唇にキスをした。深いとこまでは行かないけれど、深いキス。


「あなたと一緒に老いて、一緒に死ねる」


幸せそうな顔で彼女は泣いていた。


僕も泣いていた。


こみ上げる嗚咽の中に僕はなんと言って良いのか解らなかった。


でも


「おかえり」


それだけが言えた。

無題

いつもの場所で待ち合わせていたはずだった。


僕の妄想でなければ、今日は彼女とのデートの日だった。


僕は自分で言うのもなんだが、時間にきっちりした人間で、さらには融通の利かない人間である。そしてA型ではない。それでも僕は今誰かを恋うている。だからこそ、彼女に告白した時も、僕は自分がどういった人間であるかということを彼女に伝えている。


そして今、僕はここにいる。


実に奇妙な関係であった。決めた時刻しか合わず、お互いの深い部分には干渉せず、それでも確かに感じる愛おしさと言うものがある。この関係をとても心地よく感じている自分がいる。そして彼女もそのようだった。


まるで間合いを計っているかのような緊張状態。息が詰まるとは感じない。むしろ心地よい。つまりはそんな人間。また新しい自分を見つけることが出来た。彼女もまたそうだったようだ。


待ち合わせ時間は10時。今は9時50分。僕はいつも待ち合わせの丁度10分前にいる。そして彼女は待ち合わせの丁度五分前に現れる。


そして待ち合わせの時間までお互い隣り合い、一言も言葉を交わさない。寄り添ってはいるが、時間までは口を開かない。これは暗黙のルール。僕と彼女の規則。どちらが決めたわけでない。最初からこんな感じだ。僕らは5分の奇妙な時間を楽しむ。


10時丁度に僕らはお互いの顔を見合わせて笑い会う。


なぜか通じ合っている気がしてとても嬉しくなる。


「やあ、今日は買い物だっけ?」


「ええ、そうよ。たっぷり付き合ってもらうから覚悟してね」


彼女の笑顔を見てまた嬉しくなる。


「・・・・・?」


「どうしたの?」


「いや、何でもないんだ」


「そう?じゃ、行きましょ?」


彼女に手を引かれて歩き出す。


気になったのは彼女にの向こうに見つけた。彼女に似た、彼女。あまりに似すぎていた、気がする。気がしただけかもしれない。雰囲気がとても似ていた。


手を引く彼女を見る。屈託の無い笑顔を見る。今は気のせいだと僕は吹っ切った。


「ねぇ、貴方ならきっとわかってくれる。もし、私がいなくなったら」


いきなり彼女が喋りだした。


「私を殺して」


笑顔はなかった。それでも、僕は彼女を感じていた。彼女は本気だ。


「そして、私を助けて」


目の奥を覗き込む。


吸い込まれた世界で僕は返事をした。


「あ、あそこ入ろ?」


ふと、彼女に笑顔が戻っている。


僕は笑いながら彼女に寄り添っていた。






待ち合わせの10分前。僕はコートに手を突っ込んで、じっとしていた。


「や、早いね」


いきなり声をかけられた。


振り向くと彼女がいた。


「さ、行こう?」


彼女は手を差し出した。


彼女は歩きだす。


「今日は映画でも見に行きましょ?」


彼女を横から見る。それは彼女の顔で、彼女が笑っていた。


「ああ」


彼女に手を引かれながら歩き出す。


いつもと同じ関係で、いつもと同じように寄り添い歩く。


空は曇っていた。





三ヶ月がたった。


「や、いつもこの時間だねッ?えらいえらい」


彼女はおどけて、僕をなでた。


鳥肌が立ってしまったけれど、気づかれなかったようだ。


「今日はどうするんだっけ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


僕は黙っていた。


「ん~忘れちゃった。って、もしかして、怒ってる?」


「いや。今日は海に行こうって話だったろう?」


僕は目を細めて、笑顔を作った。


「へぇ、そんな笑い方も出来るんだ?」


変なところに反応した彼女は、なんだか嬉しそうだった。


「車、せっかく借りてきたんだからさ。早く行こうか」


僕は彼女を促して、車に乗せた。


彼女は嬉しそうに助手席に乗って笑った。


「飲むかい?」


僕は缶コーヒーを渡す。


「ありがと」


彼女はそれを飲み干した。





海は灰色だった。


風が少し強かったけれど、これはこれで趣がある。


彼女と僕の大好きな場所だ。


僕と彼女の気配しかない。そんな冬の海が大好きだ。


「・・・・・帰ろうか。少し冷えちゃった」


彼女が言った。


「そうしようか」





帰りの車の中、彼女は眠っていた。


彼女の隣で僕は無表情だった。





彼女を起こして彼女と別れを告げた。








彼女の家に向かう。


玄関を開けると彼女が倒れていた。


彼女を抱き起こすと、彼女が目を開いた。


「どうして?」


彼女は涙を流した。


「代わりにはなれないんだ」


「・・・・・・・・・・・・・・」




彼女は、最後に目を閉じて、大きな涙を流した。










彼女を抱えたまま、彼女の部屋を目指した。


部屋を開ける。


彼女がいた。


髪はぼさぼさで、少しやせてしまっているけれど、そこに彼女の気配が確かにあった。


彼女を抱きしめて、キスをする。


「ありがとう」


彼女は僕の目を見て笑った。


「私を殺してくれてありがとう」


彼女の抱擁の後ろで彼女の別物が横たわっていた。











別物は行方不明になった。


僕は彼女と一緒にいた。












「ごめん、一生一緒にいて」


「なにをいまさら」


僕らはそれきり黙ってた。


よりそってじっと海を見ている。


何時までも見ている。


そして、


「ごめん」


そう言って、僕らは寄り添って去っていく。


そして、二度と振り返らなかった。

放置後

長いこと放置していたので、少し再開。


少し長文を書く練習をしたいと思い至る。


次日より。


日程は飽きるまで。

大きな・・・・・

放課後の教室は静かで


誰もいない


野球部の掛け声や吹奏楽の楽器の音


色んな音が混ざって、ちょっとした喧騒を作り出す


何もいない教室で僕は向こう側へ片足を突っ込んで


目には薄暗い教室


乱雑な机に、掃除し損ねられた黒板消し


ふと、上を見る


ここは空が見えない


屋上はとても高い


階段を踏みしめて歩く


屋上への扉は鍵がかかっているはずだけれど、なぜか空いていた


屋上へ出れば、真っ青な空が広がっている


真っ青でどこまでも吸い込まれて消えてしまいそうな青


屋上から一歩、飛び出した


一人はさびしいだろうから


一緒に行こう


僕の最初で最後の恩返しに

幸あれと願いはするけれど・・・・・

不変を過ごす僕はなんと無力なのだろうか


なんと下らぬことで悩み、自分でも恥ずかしいくらいの思いを胸に秘める


なんと下らなくて、とても贅沢なことだろうか


不変に慣れ、不変であることに疑問を抱かずに、そして明日も不変である


故に、突然の変化は強い


夢物語から目が醒めるように


現実へと立ち返る


なにも見たくなくとも、現実は僕に不変を突きつけ、またそれは不変と化してゆく


なにも変わらない


変わったことは、もう元には戻らない


僕は認めない


認められぬのだ


この目で不変を見るまでは


見たくはないのだ


だから、今僕は逃げている


近い夏、僕は不変へと立ち会うことにはなるのだろうけれど

八回

いつもそうだ


自分の知らないところで事態は進行していく


自分に無関心な世界で、僕はいつも取り残されてしまう


いつもいつも


僕が知った時には全て手遅れ


いつも事実のみが僕を責める


事象は漠然と、事実は忽然と


いきなり目の前に姿を現して全てを告げていく


ほら、また君のことを僕は知らなかった


出来ることなら


もし、今からでも間に合うのであれば


どうか、どうか安らかな時を貴方に

七回

そして、光の中へ


大きくて、暖かくて、安心感のある光の中へ


安息を求め、闇の中へ


大きくて、寒くて、そして原点である闇の中へ


深呼吸をして、肺に空気をいっぱい吸い込んで、私は飛び込んだ


光へ?


闇へ?


どちらでもない


私は今、灰色の世界を生きている


この世界で生きている


目的なんかない


ただ、生きている


生きていることを、噛み締めて、ただ、ひたすらに生きる


人生の目的なんて、結局跡付けでしかないのだから


きっとなるようにしか、ならないのだろう


身を流れに任せて、逆らうことをせず、抗うことをせず


きっと私は流されていく


笑いながら、泣きながら、後悔しながら


それでも、私は流されていく


どこまでも


逆らうことなんてできもせず、抗うこともできもせず


逆らうことを許されず、抗うことを許されず


大きな、大きな流れに翻弄される歯車のように


きっと、自分の意思とは関係のない方向に流れていく


逆らうことを諦めて、抗うことを諦めて


それでも、私は、流されることをやめない


それだけは、やめない

六回目

階段を登る。


放課後の学校は、野球部の掛け声や、吹奏楽の楽器の音なんかであふれている。


それでも、放課後の学校というのは静かで、静かの上に音が張り付いている。


騒がしくない。


とても気分良く階段を登る。


今日も私は階段を登る。


もうすぐ、後ちょっと。


そら、光が見えてきた。


外に出れば、真っ赤な空が広がっている。


真っ赤。


まぶしさに目を焼かれて、数秒立ち尽くす。


それでも、まっすぐ進んで、金網の向こう側へ。


屋上の縁に腰掛けて私は歌う。


大昔の歌を、いつも歌っているように。


下の世界を見下ろしながら、私は歌う。


足をしきりに、ぶらぶらさせるのが、私は好きだ。


歌いながら、思う。


何時からこんなことをしているのかわからない。


気が遠くなるくらいの時間の中。


私は、この屋上が大好きだ。


だから、明日も登ってこよう。


そして、歌おう。


そう思って、私はいつものように、立ち上がり、そこから大空に羽ばたいた。