私は加賀さんが好きだ。あの人も私を好いてくれていて、だから私たちは恋人だ。
私はあの人が好きで、あの人も私が好き。
その事実だけで私たちの「恋人」という関係は成り立っているのに、周りの人たちには「どこが好きか」を求められる。
どこなんてどうでもいい、と少し冷めた気持ちで質問してくる相手を見つめる。
例えばあの瞳だけで私はあの人を好きになった? 例えばあの人の凛とした戦い姿に心惹かれた? 例えば、あの人が奏でるその声に想いをはせた? そんなものはただのきっかけに過ぎない。好きになれば、私はあの人の全てが好きなのだ。
私に対して人一倍厳しいところも、私が少し失敗すれば「これだから」と小言を言ってくる不愉快なところも、あのまっすぐ私を見つめてくる瞳も、戦いの最中には普段よりもさらに凛と強く立っている姿も、あの人の口から飛び出す静かで心安らぐ声も、好きなものを食べているときの穏やかな表情も、あの人が生きてきた時間全てが、私にとっては愛おしい。
そして「全部」と答えれば、外野は「特にどこが」と聞いてくる。
どうして「一部」を聞きたがるのかと辟易する。でもそんな表情を見抜かれないように穏やかに微笑んで「全部だよ」と答える。
相手はつまらなさそうに「ふーん」と言ってどこかへ行く。
「瑞鶴」
「加賀さん?」
あの声で呼ばれてドクンと心臓が脈を打ち始める。
まるで今まで動いていなかったようだなと心の中で苦笑しながら、若干火照った頬がバレませんようにと願いながら後ろを振りむく。そこには小首をかしげて私を見つめる加賀さんが立っていた。
「どうしたの? あんなに冷たい声を出して、いつもの貴女らしくない声ね。まぁ、私は嫌いではなかったけれど」
辟易しているのを隠して、少し明るい声を出したつもりであったのに、この人にはすぐ見抜かれる。
それから少し穏やかに微笑んで、私に近づいてくる。
「何かあった?」
「いえ、何でもないです」
「そう……言いたくないならそれでいいわ」
加賀さんには全部バレていることが、私にはなんとも悔しくもあって、また嬉しくもあった。私の恋人は、私の嘘を見抜ける人だ。私の恋人は、私が「何でもない」といえば必要以上に踏み込んでこない、いくら恋人でも入ってはいけないところがあるのものねと笑ってくれる人だ。でも、たまに、私が「大丈夫」と笑っていられないときだけ、この人は必要以上に踏み込んできてくれる。そんなところも大好きだ。
「ああ、それと」
「はい?」
「私も、貴女の全てが好きよ。ありがとう」
そう柔らかく微笑んで、加賀さんは演習があるからと立ち去っていく。
ただ少し早歩きで向かっていたから、照れていることも容易に想像できた。
「……」
加賀さんの残り香が廊下を吹き抜けた風に浚われた頃に、私の顔はボッと音を立てて赤く染まった。たまに見せるあの柔らかい表情と共に乗せられ、優しい声で奏でられた甘い言葉は、私の心臓に異常なほど仕事をさせる。
鳴り止まない心臓を音を聞きながら「だから私たちは恋人なのだ」と小さく笑った。
私は加賀さんの全てが好きで、あの人も私の全てを好きでいてくれて、だから私たちは恋人だ。
それは揺るがぬ事実の問題で、周りがとやかく「どこが」と聞いてくる問題ではない。
あの人が私を好きでいてくれるなら、私もあの人を好きでいる。
私があの人を好きでいるなら、あの人も私を好きでいてくれる。
冷めない愛情と信頼があればこそ、私たちは恋人なのだ。
pixivから転載。自分のアカウントからの転載なので問題はないです。
瑞加賀尊いなぁ…
